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不思議体験

辻村さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

沈む
短編 2025/11/05 00:27 1,080view

私が以前のマンションから引っ越した理由の話です。

ある日の朝、仕事に向かうため部屋を出ると、視界の端に何かが映りました。
少し驚いた私ですが、視線をそちらに向けると、それはただの椅子でした。
思い返してみると、お隣の部屋が最近忙しない雰囲気だったので、
引っ越しでもするのかな、と廊下に置かれた椅子に納得しました。

しかし、実際にお隣が引っ越してからも、
その椅子は一カ月近く廊下に放置されたままでした。
いい加減気になって仕方がなかった私は、
椅子まで近づいて、観察してみることにしました。
錆びが目立つ金具、ボロボロに剥がれた合皮の座面。

それは何の変哲もない使い古しのオフィスチェアでした。
結局、何故放置されているのかはわからないまま、私は日常に戻りました。

それからまた、一週間ほど経った頃だったかと思います。
未だそこに鎮座している椅子に、私は違和感を覚えました。
もちろん、椅子が放置されている状況それ自体おかしなことなのですが、
私はまた近づいて、観察して、座面が浅くへこんでいることに気がつきました。
以前見たときにへこんでいたのか、覚えてはいませんでしたが、
なんだか私にはそのへこみがとても生々しく、気味が悪く感じられたのです。

朝、通勤のために部屋を出る。晩、仕事から部屋に帰ってくる。
そのたびに視界に入る椅子。

遠目で見ても、あのへこみがだんだん深くなっていることがわかりました。

いつしか私は、
あの椅子に何かが座っているのではないか、
時間が経つにつれて、その何かが形を成していくのではないか、
そんな妄想に囚われていました。
明日、ドアを開けたらそこにいるかもしれない。
今夜、帰宅した時、座っているそれを見つけるかもしれない。

精神的に参ってしまった私は引っ越しを決意し、
退去当日まで、椅子の方向へは視線を向けずに過ごしました。
なので当然ですが、それ以来あの椅子は目にしていません。
けれど、今でも思い出すのです。

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関連タグ: #隣人
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