百円ババアっていうのがいたんですよ、ウチの地元。
呼び名は色々あったみたいですけど、
だいたい似たような感じだったと思います。
繁華街近くの駅でよく見かけました。
駅ナカのコンビニから出たタイミングとか、
券売機で切符買ってる時とかに、後ろから突然声をかけてくるんです。
「百円貸して。」って、だから百円ババア。安直ですよね。
こっちが断っても、百円あげても、ずっとニヤニヤしてるもんだから、
気味悪がってる人も多かったです。
で、大学四年の後半になった頃、就活も済んだし単位も取り終わったんで、
久しぶりの飲み会で、その駅に寄ったんです。
そしたらやっぱり百円ババアがいて、就職したらこいつともお別れかとか
思ってたんですけど、いつもと様子が違ったんです。
ところどころ黒く汚れた、本来は白くてモコモコだったんだろうベストとか、
もう靴底が擦れて無くなったんじゃないかと思うようなスニーカーとか、
そういう服装はいつも通りなんですけど、表情がまず違うんです。
いつものニヤけ面じゃなくて、なんていうんですか、哀願というか。
すごい真剣に、切実に、駅を歩く人に声をかけてるんです。
なるほど、そのキャラの方がお金貰えるのかなとか、
一人で納得して通り過ぎようとしたら。僕にも声をかけてきて。
最後に恵んでやるかと思って百円ババアの方を向いたんですよ。
そしたら、しわくちゃの左手をお椀みたいに丸めて、
「て、て、て。」って言うんです。て?手?って困惑してたら、
右手に持った瓶を、ぼくの方に傾けてきたんです。
ちょうど、お酌するような感じで。
何もかも意味わかんないし、なんだかイヤな感じがしたんで、
無視してそのまま駅から出ました。
それ以降、百円ババアの姿は見てないし、噂も聞いてないです。
それで、なんですけど。
今月からウチの部署に新卒の子が一人入ってきたんです。
話してみたら、その子ぼくの大学の後輩らしくて。
地元トークついでに、百円ババアのこと聞いてみたら、
そんなの聞いたこともないって言われちゃいました。
でも今はあの駅、
「ててじい」だか「瓶おじ」だかっていうのがいるらしいです。



























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