因果

とはいえやっぱり、気になるじゃないですか、赤ん坊の声。
だからぼく、探したんですよね、どこに赤ん坊がいるのか。
スタッフには軽く止められましたけど、
夜勤に入るのなんて今回が最初で最後だろって思ってましたし、
なにより好奇心に勝てなかったんですよね。
で、ちょっと時間かかっちゃったんですけど、見つけたんです。
赤ん坊の声は、事務所のガタついた窓を通る、すきま風の音でした。

幽霊の正体見たり枯れ尾花、でしたっけ。まさにそんな感じですよね。
テンションも上がってスタッフのみんなに報告しに行きました。
ただのすきま風じゃん、って。
だからもう怖がる必要ないですよ、って言いかけたところで、

また赤ん坊の声が聞こえたんです。絶対、事務所とは違う方向から。

驚きはしましたよ、そりゃ。
さっき特定したすきま風の音と、全く同じように聞こえましたし。
でも、正体が赤ん坊の声じゃないってわかってる以上、恐怖なんか抱かないですよね。
それで、スタッフの一人がどこから聞こえてるのか探しに行ったんです。
数分して、ドリンクバーの稼働する音だったよ、って言いながらその人が帰ってきて、
やっぱり霊なんかじゃないよね、なんて笑い合ってたんです。

そしたらぼくらの真後ろから、赤ん坊の声が聞こえました。
受付にいるぼくらの後ろなんて、壁しかないのに。
ここは建物の端だから、壁の向こうは外なのに。
そこからもうパニックに近い感じになっちゃったんですけど、

なんとか朝まで堪えきりました。
みんな、受付には立ちたがらなかったですけど。
赤ん坊の声は、朝のシフトの人たちが来る頃にはもう聞こえなくなってました。

で、まあ、そんなことがあったんで、ぼくとか夜勤の人たちは辞めちゃって。
店長には悪いことしたなって思いますよ、本当に。
ただでさえ欠員が一人出るだけで困ってたぐらいなのに、って。
でも、しばらくしてから、辞めて正解だったなって思いました。

そのネカフェって、ビルの4階まるまる使った店舗だったんですけど、
当時は6階に飲食店がいくつか入ってたんですよ。
それで、バイト辞めてから半年後くらいだったかな、噂を聞いたんです。
6階の居酒屋で働いてると、深夜に赤ん坊の声が聞こえる、って噂。