奇々怪々 お知らせ

不思議体験

辻村さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

披露
短編 2026/09/01 03:06 27view

大学生の頃、リサイクルショップでアルバイトをしていた時の話です。
仕事の内容は品出しやレジ、査定などが主になるのですが、その日も特段忙しくない、平穏な勤務時間を過ごしていました。

ちょうど僕がカウンター内にいたタイミングで、お客さんが入ってきたんです。
お世辞にも身ぎれいとは言えない、黄ばんでいるのか黒ずんでいるのかはっきりしない季節外れな厚手のジャケットを着た、小太りのおじさんでした。
おじさんは半開きの口をニヤつかせながら、何やらブツブツと呟きながら査定コーナーへまっすぐやってきて、カウンターへしわくちゃになった不透明な白のビニール袋を置きました。

「査定。」
ひと言そう呟くと、おじさんは横になっているビニール袋からニッパーを一つ取り出して、僕の方に差し出してきました。
汚れて伸びきった爪に、酸っぱいような甘ったるいような体臭。僕の顔は引きつっていたかもしれません。
とはいえ仕事ですので、僕はニッパーを受け取り、それを眺めました。
赤さびにまみれ、刃の部分もガタガタになり、ずいぶんと年季が入ったように見えるニッパーは、一目で買い取り対象にならないことがわかりました。
「申し訳ありませんが、これは買い取れませんね。」

そう言ってニッパーを返すと、おじさんは続いてこれまた汚れた結束バンドを三本ほどビニール袋から取り出して渡してきました。
「未開封で袋に入った状態なら査定もできるのですが、バラではちょっと厳しいですね。」
結束バンドを突き返すと、また別のガラクタを出してくる。そんな不毛なラリーが何度か続きました。
そうしている間もおじさんはニヤニヤした表情のまま、呟いているのか呻いているのかよく分からない声を出していて、正直僕はかなり嫌気が差していました。

とっとと帰ってくれないかな、そう思った時。
ビニール袋からポロっと、ほっそりした指が転がり落ちたんです。
関節部分のシワや、丁寧に塗られたネイルグロス。
仕事柄フィギュアの類はよく見ていましたが、あんなに精巧な作りのものは初めてでした。
これまでに出してきたものとのギャップに僕が面食らっていると、おじさんは、
「ああ、これは大事。大事だから。」
と素早く指をビニール袋に戻して、僕の目をじっと見て、

「綺麗でしょ、ね。」
そう言って満面の笑みを見せて、踵を返して、足早に店から出ていきました。

「ちょっと徳永くん、サボっちゃダメだよ。」
不意に後ろから店長に話しかけられ、僕はハッとしました。
妙な客がやってきたこと、明らかに不審者だったので通報した方がいいかを店長に伝えると、店長は怪訝な顔をしながら僕を事務所に連れていき、監視カメラの映像を一緒に見ることになりました。
ライブカメラから録画に切り替えて、少し巻き戻す。
するとそこには、数分間何をするでもなくカウンターに突っ立っているだけの僕がいました。

何とも言えない気持ち悪さを感じながら店長に謝り、きっと寝不足気味で立ったまま奇妙な夢を見ていたんだと自分に言い聞かせてフロアに戻ると、カウンターで先輩が必死に何か作業をしていました。
どうしたんだろうと近づくと、
「これ、全然取れないんだよね。さっきまでは無かったのになあ。」
と雑巾で天板をゴシゴシと拭いていました。
白い天板に残った、あの少しくすんだ赤黒い模様は、多分忘れられないだろうなって思います。

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