祖父の父を筆頭に玄関へと見送りに向かう。
「数々の無礼。大変失礼致しました。どうかお許しください」
祖父の父がそう言い深々と頭を下げると、その男は軽く手を振った。
「お邪魔しました。じゃあ雄太。これからよろしくのう」
にんまりと叔父の息子に笑いかけると家を後にした。
「誰か塩!塩を持って来て」
「やめなさい!」
そう叫ぶ叔父の奥さんを制して祖父の父が語り始めた。
「あれは山のもんだ。神か物怪か分からんけれど」
「あれ(叔父)が三十くらいの頃仕事中に崖から谷底に転がり落ちた事があっただろう?それなのにかすり傷一つなく帰って来た事が」
親戚達がガヤガヤと声をあげて頷く。
「不思議だったんだよ。あんな高い崖から落ちて傷一つ無かったことが。で。なんであんな綺麗に指三本だけ落としてしまっていたのか」
「本人は何も覚えていないと言っていたがあの時国茂は本当は死んでいたんじゃないか?それを今日来た者に指三本と引き換えに助けてもらったんじゃないか?あれは山の事をよくやっていた。山のもんに気に入られていたんだろう。命の後払いみたいなものか。あの時引き延ばして貰った命を返してもらいに来たんだろう」
祖父の父がそう言い終わっても誰一人として声を上げるものはいなかった。
その後、無事火葬まで終えた叔父の遺骨は祖父の父と叔父の息子によって山へ返された。
今は祠や遺骨がどこにあるのか分からないが今でも叔父の一族は山に携わる仕事をしている。

























ヤマノケとなの話は好きですね。味方かと思えばそうでもない。ゾクッとする。
祖父のお父さんに山神に対する礼儀や知識があって良かったですね。
もし、山神からの願いを無視していたら叔父の息子さんは連れて行かれてしまったんじゃないでしょうか