私が初めてこの世のものではない何かを見たと記憶しているのが、小学生低学年の頃の下校の時間だった。
小学校からの帰り私にはいつも一緒に帰る友人がいた。田舎だったのでそんなに道も広くなく、かろうじて子供2人並んで歩けるくらいの歩道があるだけの農道のような道を歩いていた。
車通りも少なく夕方辺りの時間帯は農業をしている軽トラやバンが通るくらいだった。
いつもの様に友人と2人で談笑しながら帰っていると向こうから茶色い大きな車が走ってくるのが見えた。
いつもならそこまで気にならないのだが普段あまり見る事の無い珍しい車が走ってきていたというのもあって、その車が来るのを待ち構えていた。
遂に車が目視できる距離まできた。運転席には中年の男性、助手席の人間の姿を見た瞬間。全身に寒気が走った。
髪がなく鼻もない。口はポカンと開いていて、口の左右に牙の様な突起物。目はこれでもかとつり上がり、肌は白塗りでもしているのかと言うほど白い、女性……?
その人ともつかない様な風貌の「それ」をなぜ女性と認識できたのか分からないが確かに私はそれを女性と認識した。
更に車が横を通過する瞬間「それ」はしっかりと横を向きこちらを見ていた。
笑っているのか怒っているのか、吊り上がったその目は凍り付きそうなほど冷たく、目が合ったと認識した瞬間、呼吸が荒くなり体中がガタガタと震え出し、立っていられる状態ではなくなってしまいその場に座り込んだ。
少し先を歩いていた友人は突然座り込んだ私に驚き走って駆け寄ってきた。私は彼に先ほどの車に乗っていた人を見たか?と聞いた。
すると友人は
運転席には中年男性、そして助手席には……
白髪の至って普通の老婆が座っていたと言ったのだ。そう。彼には普通の老婆が見えていた。
じゃあ私は見たものは一体何だったのだろうか。
一瞬の出来事ではあったが、今でもあれは普通の人間だったとは思っていない。
何かが老婆の姿に化けていたのかそれとも老婆の中に巣食う何者かが透けて見えてしまったのか。
はっきりとは分からないがこの世には言葉では説明のつかない「何か」が確かに存在すると私は思う。


























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