この話は私の祖父から聞いたのだが、祖父がまだ三十代くらいの頃に体験した不思議な話。
ある秋の夜、祖父の叔父が突然亡くなった。くも膜下出血だった。叔父は山に入って木を切る仕事をしていたのだが、山へ行く途中の道端で倒れてしまっていたらしい。
いつも一人で仕事をしていた事と人通りが少ない道だったと言う事で発見が遅れそのまま亡くなったそうだ。
叔父の訃報を聞いた祖父は、畑仕事を早々に切り上げ、通夜の準備を手伝い始めた。
今でこそ葬儀のほとんどを葬儀場でやってもらうが、少し前の時代では自宅に故人を連れ帰り、家族や近所の人達で葬儀を行なっていたらしい。
かなり山奥にある集落だった事もあり、あっという間に叔父の訃報は広まり、次から次へと弔問客が叔父の自宅を訪ねてきた。
午後十時を回る頃には人も少なくなり、祖父や親戚達は隣の客間で酒を飲みながら故人を偲んでいた。
「あれ(叔父)も五十になってようやく木こりの仕事も手についてきた頃だったのにな」
「一カ月くらい前から頭が痛いて言っとったらしい。あん時病院行っとけば命までは失わんかったかもしれんのにな」
叔父は無口で無愛想ではあったものの、筋を通す性格というか、真っ直ぐな性格で誰に対しても誠実に対応していた為、皆に好かれていて各々叔父の死を残念がっていた。
それぞれ話し終え、ふと一瞬の沈黙が部屋に訪れた時、ガラガラと玄関が開く音が聞こえた。
「ごめんください」
しゃがれた老人の様な声が聞こえてきた。
「はーい」と炊事場にいた女性陣が対応に当たっている様だったがしばらくした後、客間の扉が開いた。
「あの。国茂(叔父)さんの知り合いの方かな?顔を見せてくれと来ているのですが」
年長者でもあった祖父の父が立ち上がり玄関へと向かう。それに続き他の親戚や祖父も後を追った。
玄関に立っていた男を見て一同唖然とした。
年齢は七十から八十くらい。赤黒い肌に手入れされていない白い髭を鼻の下や顎に蓄え、黄土色のジャケットを身につけ、その下には薄汚れた白い肌着に茶色の腹巻。同じく黄土色の幅が広いズボンを履いて、大黒様のような薄茶色の頭巾を被ったその男は唖然とする一同を見ながら軽く帽子を上に持ち上げた。
「国茂が亡くなったと聞きましてな。慌てて来た所です。
顔を見せてもらっても構いませんかな?」
祖父の父は訝しげにその男を見つつ
「国茂とはどの様なご関係で?」
「あなたが家長ですかな?そうですな。まぁ仕事仲間の様なもんです。ほら。山でよぅ会いよったんです」
そう言いながら顎をボリボリと掻くとポロポロとフケの様な白い粉が散らばった。
嫌悪感と不信感からその男を帰そうかとも考えたそうだが、仕事関係という事もあり失礼があるといけないと思った祖父の父は、土間から上がる様促した。
お邪魔します。と木製の下駄の様な履き物を無造作に脱ぐとそれを揃える事もなくズカズカと上がり込んだ。
祖父の父を先頭にその男。祖父達と続いて仏間へと向かっていたのだが、その男から放たれる汗臭さや獣臭に思わず顔を背けた。
確かに急なことではあったし、仕事終わりにそのまま来たのかもしれないけれど、多少は身だしなみに気を使えよ。と祖父はイラッとした。
仏間へと通されると、その男は横になっている叔父の顔付近へ座ると自分の顔を叔父の顔に近づけ、まじまじと見つめている様子だった。
「国茂。返しにくる約束だっただろう。なんで寿命が尽きるまでに来んかった?約束が違うだろうが」
























ヤマノケとなの話は好きですね。味方かと思えばそうでもない。ゾクッとする。
祖父のお父さんに山神に対する礼儀や知識があって良かったですね。
もし、山神からの願いを無視していたら叔父の息子さんは連れて行かれてしまったんじゃないでしょうか