俺はいま社会人だ。
忙しい毎日の中、ふと大学時代のことを思い出すことがある。
これから話すのは、そんな学生時代に俺が実際に体験した出来事だ。
俺が通っていたのは、某S大学。
暑い夏休み、普段は課題やバイトで埋まりがちな日々に、ちょっとした刺激がほしいと思った。
ある日のこと、友人の伊藤とコンビニの前でダラダラしゃべっていたとき、ふとこう切り出した。
「なあ、夏休みっぽいこと、なんかしないか?」
伊藤は即座にノリノリで返してきた。
「肝試し行こうぜ!」
俺は普段、こういうオカルト系にはあまり縁がない。
けど、高校時代は部活や受験勉強でそんな暇もなかったし、たまにはいいかと思った。
それに、伊藤といると妙にテンションも上がる。
どうせならと、同じサークルの先輩、大学3年の斎藤さんも誘うことにした。
先輩は頼りがいがあって、場を盛り上げるタイプ。三人なら怖いものなし、そんな気がした。
目的地に選んだのは「犬鳴村」。
正直、聞いたことはあったが、どこか現実味のない、都市伝説のような響きの場所だった。
夏の夕暮れ、車で現地に着くと、湿気を含んだ空気がもわっと肌にまとわりついた。
周囲は思ったより静かで、古びた標識と草の伸びきった道が、どこか不穏な雰囲気を醸し出していた。
少し歩くと、遠くにホームレス風のおっさんが座っているのが見えた。
俺たち以外に人影はなく、拍子抜けするほど何もなかった。
ただ、その空気が、逆に妙な緊張感を生んでいた。
奥の方へ進むと、洞窟の入り口が人工のコンクリート壁で塞がれている。
壁にはスプレーの落書きがびっしり。
「ここ、不良の溜まり場なのかな」と、俺は内心で呟いた。
伊藤と斎藤先輩は「ちょっと奥まで見てくる」と言って、二人で歩き出した。
俺は、なんとなくその場に残ることにした。
正直に言えば、少し怖かったし、いざという時の“逃げ場”を確保したかったのかもしれない。
しばらくぼーっと立ち尽くしていると、ふと足元の草むらに小さなお地蔵さんを見つけた。
苔むして、かなり汚れていた。
なぜか気になって、持っていたタオルで優しく拭ってやった。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。