その男の放った言葉に皆がざわつき始めた。
「あの。うちの主人お金でも借りていたのでしょうか?それでしたらすぐにお返ししますので。それで金額の方は」
叔父の奥さんが男にそう言うと、振り返らず叔父の顔を見つめたまま言葉を続けた。
「いやいや。金なんか貸しとらんよ。ところで国茂はなんで死んでしまったんかな?」
「くも膜下です。発見が遅かったのでそのまま」
「そうやったか。病気やったら仕方ないが約束は約束やからな。国茂に子はおったんかね?」
男の言葉に後ろの方から青年が声を上げる。
「あ。僕です。僕が国茂の息子です」
「……若ぇね。何歳や?」
「25です。今年26になります」
「うん。親父の仕事は継ぐんか?」
「一応。まだまだ修行中だったのですが頑張って一人前の木こりになろうと思っています」
「お前さん。名前は?」
「雄太といいます」
「そうか。そうしたら雄太。山にある祠分かるな?国茂の火葬が終わったらその骨持って祠へ返還せい」
骨を返還する?皆がザワザワと声を上げ始める。
「ちょっと待ってください。あなたは何を言っているんですか?どなた様ですか?夫との関係を教えてください」
叔父の奥さんが息子の前に出て、男を睨みつけながら語気強めに行った。
「これはわしと国茂の約束ですから。貸したもんはしっかり返してもらわんといかん。返せんのやったら息子貰って行かんといかんようになるがよろしいか?」
「警察を呼びますよ!」
叔父の奥さんがそう叫ぶと男の柔和だった顔が、次第に赤く染まり鬼の様に恐ろしい形相へと変わっていった。
その様子を静観していた祖父の父が慌てた様に声を発した。
「分かりました。火葬が終わり次第すぐに祠に国茂の遺骨を返還します。どうぞお気をお鎮めください」
祖父の父の言葉を聞くと、再び柔和な表情に戻り、くるりと叔父の方へ向き直すと手にした麻袋から何やら取り出し枕元に置いた。
祖父や親戚達が覗き込むとそこには大きな柿やあけびが置かれていた。
「冥土の道は長ぇからね。これでも食いながらゆっくり
歩いていけ。お疲れさんじゃったのう。国茂。お前さんが今まで山にしてくれた事は忘れんからのう。ゆっくり休め」
そう言うと再びこちらへ向き直し、祖父の父へ頭を下げた。
「家長さん。お騒がせして申し訳ないね。じゃあわしはこれでお暇させてもらうんで」
そう言って立ち上がるとズカズカと廊下を渡っていき、下駄を履いた。
























ヤマノケとなの話は好きですね。味方かと思えばそうでもない。ゾクッとする。
祖父のお父さんに山神に対する礼儀や知識があって良かったですね。
もし、山神からの願いを無視していたら叔父の息子さんは連れて行かれてしまったんじゃないでしょうか