俺は30年ほど前に、ある小説の投稿雑誌に他愛もない妄想のような作り話を投稿したのがきっかけで、あまり売れないながらも現在「作家」を名乗っている。
妄想とは言うものの、その時ハマっていた夢日記とでも言えばいいのか、その日見た夢をメモに取り、それを基に短編小説として完成させて投稿していたというわけだ。
その出版社の勧めで運よくデビューできて、何冊か出版できるまでになった。
その中の一冊に自然災害をテーマにした短編集があったが、荒唐無稽すぎるとの批判の嵐で、初版は多くの在庫を抱えて再版されることは無かった。
その内容といえば、19xx年x月x日に有名な大きな火山が噴火を起こし、国内にある小さなたくさんの火山が連鎖して噴火するとか、20xx年x月x日にとある方法で首都上空に地震雲を発生させ、人工的に地震を起こして都市機能を崩壊させるとか、今考えても確かにお恥ずかしい限りだ。
ここに上げた日付は夢で見たものだったり、後から適当に思いついた日付だから、もちろんその根拠など一切ない。あるわけがない。
その中の一編に「201x年3月x日に首都近郊で大災害が起きる」というものがある。
ただ、そこにはその大災害を具体的には書いておらず、その影響で人々はどんな影響を受けるか、どんな行動をとるのか、という内容だ。
もちろん、その日付も適当なものだ。
ところが、その「201x年3月x日」に偶然にも実際に大災害が起こってしまったのだ。
それから何年か過ぎたころ、この短編が未来の災害を予知しているとちょっとした話題になった。
当時、あるブログで「売れなかった名作・迷作小説」としてこの短編集が紹介されると、SNSが普及するにつれてその内容が広まり、この本が「預言書」として知られるようになっていた。
この本には10篇の短編が収録され、そのすべての話に日付が明記されているが、本当に日付が合致したのはこの中の一編だけなのにもかかわらずだ。
その本の最後の一編に「202x年x月5日に災害が起きる」と書かれたものがある。
この日付は、災害とまで言えないような、小さなごく当たり前のように起こる自然現象が周期的に起きるという、言ってみれば「こじつけ」や「いい加減でデタラメ」なものだ。
だから、これを「預言」として言ったことも書いたこともない。
しかし、最近になってこれを信じた人が国内だけでなく国外にもに大勢いたことがわかった。
2年ほど前に出版社が試しに海外で出版してみたところ、思いがけず想定以上に売れたというのだ。
これを真に受けて、x月5日の1~2か月ほど前からその国からの渡航者が減少し、旅行業界を中心に混乱が起きていたという。
しかもそれだけでなく、偶然にも国内のある諸島では小さな地震が頻発していて、最大で震度6弱を記録していた。
テレビやネットでは連日その話題で持ちきりで、これは根拠のないデマだといくら報道していても、もはや焼け石に水だった。
俺のSNSの、ここ数日のコメント欄は荒れていた。
「この世がどう変わるのか楽しみです」
「あなたは第2のノストラダムスだ」
これくらいならまだマシな方で、
「私は預言を信じています」
「預言を信じて仕事を辞めて放浪の旅に出ました」
「過去の預言はすべて外れている。お前は預言を外したらどうするつもりだ!」
「預言が外れたらお前の自宅を放火してやる」
といった感じで、その内容は日に日に過激になっていて、ひとまずコメント欄を閉じることにした。
で?