奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

Kouteeさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

[だせ]
短編 2025/11/21 11:25 2,000view
0

私が仕事で岩手県へ行った際、地元の猟友会のKさんから聞いた話です。
Kさんは60代後半の男性で、猟銃ではなく主に箱罠を使った猟をしている人。
仕事の関係で絡む事になった方ですが、毎回”こんなでかいやつを捕ったぞ” と面白い話をしては、鹿肉等を御馳走してくれます。しかし、一度だけ妙な話をしてくれた事がありました。
ある日の昼、Kさんと仲間がいつもと同じく箱罠を仕掛けに山へ入りました。次の日、罠を確認しましたが、何もいませんでした。しかし、檻の内側を見ると、複数の血液が付着していました。箱罠は一度入ると出られないため、内側に血がついているのは妙です。
その次の日も確認した所、今度は鹿が一頭入っていました。小鹿だったのですが、怪我をしているようで血を流していたといいます。血が出ている箇所を確認すると、何かに噛まれた後があり、最初は”熊か?” と思ったそうですが、よく見たら違ったようです。
そこにあった歯形は、明らかに熊ではありませんでした。まるで口の大きな人間が噛みちぎったような跡だったといいます。くわえて、微かに鼻をつく異臭もしたといいます。この時点で”猟を続けるべきでない”と何故か直感的に感じたそうですが、やはり熊だろうと思い直し、猟を続けました。
そこから2.3ヶ月たった時の事です。あの妙な血や鹿のことは忘れて、また仕掛けた箱罠を見に行きました。この時はKさんが一人で確認しに行っていたと言います。
すると、罠を仕掛けた方から何か声が聞こえて来ました。最初は獣のうなり声だと思いましたが、違います。その声はかなり低い声だったものの、恐らく人間の声でした。驚いたKさんは狼狽えながらも、罠の方へすすんでいくと、今度は異臭がしてきました。肉が腐ったような、強烈な腐敗臭です。
そうして少しすすんだ先に、鹿の骸が横たわっていました。大人の鹿で、首から上がなく、足も欠損していたり、あらぬ方向に折り曲げられていました。熊は、こんな食い方はしないはずです。”臭いの元はこいつか” とKさんは思いましたが、死骸を通りぎても罠に近づくほど臭いは強くなっていきました。

「ここで引き返してれば良かった」とKさんはいいます。しかしそのまま進んだKさんは、それを見てしまいました。罠の中には確かに獲物が入っていました。
それは熊でなく、人のようなナニカでした。毛皮のかわりに人間のような皮膚で、足と首が異様に長く、顔は潰れた人面のような形相だったといいます。そして、出目金のように飛び出した目でこちらを見つめ、獣のような人間のようなうめき声をあげるそれは、低く、しかしはっきりとこう言いました。

 [だせ]

それを聞いたKさんは驚きと恐怖で固まっていましたが、それが長い前足をのばして檻の扉を持ち上げようとしている時には、身の危険を感じ、急いで山を降りていました。山の途中にとめた車まで戻ってきたKさんは急いで仲間に電話をかけ、来て貰うように言いました。
しかしその途中、またあの腐敗臭がしてきたのです。”あいつが来てる” そう感じたKさんは車にのり、そのまま山を降りました。
その後、猟銃を持った仲間と罠を確認しに行きましたが、それはもう居なくなっており、残っているのは鹿の骸と檻の内側についた血痕だけでした。
それからというもの、Kさんは今でも、あの人のようなナニカを夢に見るといいます。そして、獣のように低く、しかしはっきりと夢の中でこう囁くのです。

 
[だせ]

1/1
関連タグ: #声#夢#山#岩手#電話
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。