どんな学校だよ

私が通ってた学校にも七不思議があったんですけど、大人になってみて、やっぱり変だったなって、今頃になってそう思うんですよ。
私たちの中では、七不思議ってのは本当に存在するもので、噂だとか、都市伝説って訳じゃなかったんです。実在する、本当の現象に、七不思議って名前がついてるものだと、本気でそう思っていました。
なぜそう思っていたのかですか？

実際に体験したことがあるからです。

まず私たちの学校にあった七不思議を紹介するところからですね。
ほんと、在り来りな七不思議ばかりですよ。
音楽室のベートーヴェンと目が合うだとか、理科室の人体模型が動くだとか、旧校舎は異世界に繋がってるとかね。あ、最後のはなかなか珍しいでしょう？でももっと珍しい七不思議があって。多分うちの学校にしかないものだと思うんですが。
まず七不思議ってどうやって知りました？先輩に教えてもらいました？兄弟？それとも噂好きで、何故か色んな情報を知ってる同級生とか？まあおおよそそんなところでしょうけど、私たちの学校はそこですら変で、七ヶ条。みたいな感じで、紙に書いてあるんですよ。教室の隅っこに貼られてるんですよ。おかしいでしょう？ 私たちが書いた、書道の課題、『道』とか、『翼』とかの、列に、さも当たり前の顔して、学校の七不思議。って感じで貼られてるんです。6年間もそんな感じだったから、誰もなんにも思わないですよ。それで、肝心の中身ですね。
さっきも言ったみたいに、在り来りな七不思議に混じって、

『放課後の校内を徘徊している赤目』

ってのがあるんですよ。謎ですよね。他の七不思議は場所ごとに、より具体的に、こういう事象が起こるって書かれているのに対して、コレに関してはあまりにも抽象的で、尚且つ学校全域に及ぶ七不思議な訳です。
ベートーヴェンと目が合う。みたいなものと、さも同じ系列店ですよ〜って面して平然と並べられている。不気味ですよね。この七不思議のおかげで、放課後の学校が異常に怖かった。徘徊する赤目とは何なのか、それとうっかり出会ってしまったらどうなってしまうのか。分からなかったんです。放課後、実際に影を見たと言う子もおり、恐怖心に拍車をかけていました。私は出会ったことはありませんでしたけど。出会ったことは。

でも、冒頭でお話しましたよね。私はこの身体で、七不思議を体験しているんです。私だけじゃありませんよ。少なくともあと2人、体験している人を知っていますから。
しかも、それは理科室の人体模型が動くのを見たとか、そんな生優しい七不思議ではないのです。もっと闇の深い、掃除の行き届いていない隙間のように薄暗く汚い。埃の被った湿り気の高い七不思議だったんです。

あれは夏でした。
ジメジメした暑さが辛くて、プールの後の国語の時間が眠たかった。
特に仲のいい何人かで、授業中にこっそり手紙を回す風習があって、そこで回ってきた手紙がきっかけでした。
『掃除の時間、旧校舎に忍び込まないか』と。
ようはサボりです。旧校舎は掃除の範囲に含まれていないどころか、生徒の立ち入りは禁止です。先生ですら基本行かない。それでも何故か壊されず残されている。つまり、餓鬼の好奇心を刺激するには最高級の素材です。

早速、掃除の時間に手紙を回された友達3人ほどで旧校舎に忍び込みました。

先生に見つかるかもって思っていましたけど、案外平気なものですね。

旧校舎の中は埃とカビの匂いが凄くて、思わずむせそうになります。しかも、何故かすごく薄暗い。
1人なら怖くて先へは進めなかったでしょうが、3人もいれば恐怖心も3分の1です。ええ。でも、3分の1くらいの恐怖は感じるのです。
3人が異常な光景を見て固まってしまったのは、3分の1の恐怖ですら、耐えうるキャパを遥かに越えていたからでしょう。
それはとある教室の中を覗いた瞬間のことです。
教室のど真ん中に、椅子と机を囲んで出来た、例えるなら、お粗末な魔法陣のような、低予算の地上絵のような、そんなサークルのようなオブジェがあり、その中心に、掃除用具入れに使うようなロッカーが置かれていたのですが、それが錆び付いたチェーンで強固に縛り付けられていたのです。
『旧校舎は異世界に繋がっている』七不思議の1つです。私たちは思わず、今見ている光景それこそが、異世界なのだと、壮大な勘違いをし、恐怖のキャパオーバーによって、体が固まっていました。
次第に、誰かが口火を切って、じゃんけんで負けたヤツがあそこ行ってみようぜと言い出すまで、どれ程の時間が経っていたのかすらも曖昧になるほどの間、私たちは固まっていました。
じゃんけんは私だけがグーを出して負けました。
仲間に、ビビってると思われたくなくて、震える足を押えながらチンケなサークルに足を入れました。