試しにドアノブに手をかけて見た。カチャっと小さな音がして、ドアが開いた。
すこしゆがんだドアがギイイイと音を鳴らした。
外灯の明かりが窓から入って部屋の中を照らしている。
中はガランとして、床は板がむき出しで、なにかのゴミが少し散乱しているような有様だった。まるでこれから解体しますと言わんばかりの様子だ。
そのガランとした部屋を見まわしながら、ここで一緒にリカコと過ごした時間を思い出そうとした。・・・わからない・・・思い出せない・・・記憶が部分的に欠落している・・・
リカコ・・・リカコ・・・俺は彼女の名前をつぶやいていた。
そして、次に向かったのは202号室、リカコの部屋だ。
ドアノブをゆっくり回す。カチャッと小さな音がしてさっきよりも幾分きつめにドアは開いた。先ほどまでの自分の元いた部屋よりもさらに暗い。外灯の明かりが草木に阻まれてあまり入ってこない。俺は靴を履いたまま部屋の中まで進んでみた。
そこには妙なものが置いてあった。ベッドだ。間違いない。リカコが使っていたベッドだ。
・・・茫然とそれを見つめていた時、開け放していたドアが突然「バタン!!」と閉まった。
驚いて振り返る。しばらくドアの方を見ていた。誰か来たのかもしれないと思ったからだ。
「Kクン、やっと帰って来てくれたのね」
「うわあぁ!!」
思わず声にならない叫び声を上げ、再び振り返った。
そこにリカコが立っていた。
真っ暗な部屋の中で、大学時代と変わらないリカコがそこにいた。
俺は腰が抜けたようにその場にへたり込んで後ずさりした。
リカコがヒタヒタと近寄ってくる。
その手にはカミソリが握られており、左腕からはボタボタと血が流れだしていた。
「うぁああぁぁ!! リカコ!! 許してくれっ!!」
俺は転げるようにして必死で逃げた。階段を二段飛ばしで駆け降り、転び、一目散にそのアパートから走り去った。
・・・やっと、やっと思い出した。
甘えん坊のリカコは、だんだん俺に対する依存が強くなってきて、俺の行動を束縛するようになっていた。携帯電話が鳴っただけで、浮気を疑ってしつこく食い下がってきたりした。
オレがそっけなくすると、泣きわめいたり、あげくにリストカットして見せた。
俺はだんだんとリカコが疎ましく思えるようになっていった。
だからある夏休み、俺はもうリカコのことは完全にほっといて、
行先も告げずに別な友達4人と旅行へ行ってしまった。
そのころ気になっていた女の子も一緒で、伊豆から熱海、そしてフェリーで島へ渡り、
太陽の下で青春をおう歌していた。
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