2人いた母

ドッペルゲンガーの話ということになるのでしょうか。

一時期、同じ顔をした母が2人いました。最初に現れたのは妹が産まれる直前、1人でお留守番させられていた時でした。病院に行ってしばらく帰らないけど、赤ちゃんと一緒に帰ってくると聞いていた母が、前触れもなく帰ってきたのです。

赤ちゃんは連れておらず、大きかったはずのお腹もぺたんこでした。その母は家事をするでもなく、ひたすら私と遊んでくれました。

ただ一つ変だったのは、赤ちゃんの話をした時のことです。しばらくすると何事もなかったように動き出すのですが、文字通り、電池が切れたように止まってしまうのです。
そして、父が帰る前には来た時と同じくふらりと帰ってしまいます。

そんなことがほぼひと月続きました。
やがて本当の母と赤ちゃんの妹が帰ってくると、その母のことは忘れてしまっていました。

2度目の出現は数ヶ月後でした。楽しみにしていた赤ちゃんとの暮らしですが、慣れてしまうと大人たちの注目を集める妹に嫉妬が募るようになってきました。こっそりつねったことを母に叱られて、押し入れの中で不貞寝して目を覚ますと、足元の暗がりに母がいました。
叱られた方の母だと思ってつねってごめんなさいと言うと、その母は一言「食べてあげようか」と言いました。驚いて顔を見ると、白目が真っ赤でした。

その時、押し入れが外から開けられました。眩しさに閉じた目を開けると、足元に母はおらず、押し入れを開けたのは母でした。おやつだからおいでと呼びに来てくれたのでした。それっきり、2人目の母は現れません。