1か月近く遊び歩いて、リフレッシュした俺はアパートへ戻った。
部屋に入ると、室内が荒らされていた。まるで何かを物色したかのようだ。
リカコに違いない。俺の行き先を知りたくて、いろいろ調べまわったに違いない。
「これじゃまるで空き巣じゃないか・・・」俺はあきれて202号室に向かった。
この際、別れを切り出すいいチャンスだとも思った。
(ドンドンドン) 「お~い、リカコ~いるか~? 俺だ。今戻ったぞ~」
返事もないので、俺はドアノブに手をかけた。
カチャリと音がして、ドアは静かに開いた。
「リカコ?・・・いるのか?」そっと入る。
靴を脱いでづかづかと上がっていくと、ベッドが見え、そこに横たわる女の足が見えた。
「リカコ、寝てるのか?」
そう言いながらリカコの顔を見た。
そこには、リカコの死体があった。ベッドが、赤黒い血でいっぱいになっている。
一部はもう乾き始めていた。
リカコの左腕は手首から肘にかけてぱっくりと開いており、そこから激しく出血したようだ。右手にはカミソリが握られていた。
俺はパニックになり、その場から逃げ出した。リカコはオレがいない寂しさに耐え切れず、そして自分を放って出て行ってしまった俺への最後の当てつけに死んで見せたのだ。
俺のせいで死んだのか!? 俺のせいで・・・!?
俺は彷徨うように走り回って、気が付いた時は隣町で警察に保護されていた。
ショックのあまり記憶を失い、しゃべることさえままならず、一時的に施設に入れられた。
すぐに田舎の両親が来てくれた。多分だが、学生証などから俺の身元はすぐに割れ、学校にも両親にもすぐに連絡が行ったのだろう。
当然、アパートでリカコの死体も発見されたはずだ。
自分もいくつか事情聴取されたが肝心なことは思い出せない。
だが、リカコの死亡推定時刻には旅行に行っていたことが証明され、事件性はないとすぐに判断されたらしい。それからはもう警察も顔を出さなくなった。
俺はPTSDや逆行性健忘症などで数か月の入院生活と、数年間の通院生活を強いられた。
だから病院のすぐ近くに中古のマンションを借り、リハビリに努めた。会社も障碍者に対してノウハウを持つところを紹介してもらった。しばらくは親が住み込みで助けてくれた。
そんな生活からもやっと抜け出し、一人前の社会人として働いてきたのだ。
だから・・・だからと言っては本当に申し訳ないのだが、あの日のことは記憶からすっぽりと抜けていた。まるで自分の身を守るために、脳が意図的にその記憶に蓋をしたかのように。
「これは悪い夢だ。薬を、早く薬を飲んで落ち着こう・・・」
俺は走り続け、ようやく自分のマンションにたどり着いた。
・・・404号室・・・ガチャガチャと鍵を開け、ドアノブを回して部屋に入る。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。