大学を卒業してから、俺は実家を出て一人暮らしを始めた。
会社までは電車で30分。駅から歩いて10分の築浅マンション。
オートロック、防犯カメラ、宅配ボックス完備。
安心できる、自分だけの場所。
最初の一ヶ月は、何も問題なかった。
夜は静かで、隣人の物音すら聞こえない。
毎朝決まった時間に起きて、仕事に行って、帰って、シャワーを浴びて寝る。
その繰り返し。
ある夜、ベッドに入って目を閉じた瞬間――天井から「コツン」という音がした。
最初は気にしなかった。木材の軋みとか、暖房の熱で伸び縮みした音だろうと思ってた。
でも次の夜も、また同じ時間に、同じ音がした。
天井の、同じ位置から。
三日目の夜は、その「コツン」が三回鳴った。
リズムのような、ノックのような。
気味が悪くなって、スマホで録音を始めた。
次の日、録音を聞いてみると、音がはっきり入っていた。
「コツン、コツン、コツン…」そして、微かに女の声が入っていた。
「…ここ、開けて」
俺はぞっとして、即座に天井裏を管理会社に調べてもらった。
でも誰もいなかった。
ハクビシンか何かの仕業だろうって、軽く流された。
それから数日、音は止んだ。
でもその代わりに、寝ていると、足元に視線を感じるようになった。
夜中にふと目が覚めると、ベッドの端、足元の暗がりに「誰かが座っている」気配がする。
気のせいだ。そう思って、寝たふりをしていた。
でもある日、寝ぼけた状態でスマホを手に取って前を照らすと――
そこに「顔」があった。
うつむいて、じっと俺を見ていた。
次の瞬間、スマホが勝手に消えた。
朝まで、動けなかった。
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