怪談『軽井沢大橋の囁き』
都内の大学に通う俺、翔太は、夏休みに友人の拓也と一緒に軽井沢へ旅行に来ていた。夜のドライブを楽しみつつ、地元の名所を巡ることにしたのだ。
「なあ、軽井沢大橋って知ってるか?」
拓也がスマホを見ながら言った。
「心霊スポットで有名らしいぜ。自殺者が多いらしくて、夜になると橋の上に幽霊が現れるとか。」
「やめろよ、そういう話は……」
「お前、怖いのか?せっかくだし、行ってみようぜ。」
仕方なく、俺たちは軽井沢大橋へ向かった。深夜の山道は静まり返り、車のライトが闇を切り裂く。橋に差し掛かると、霧が立ち込め、辺りの空気が急に冷たくなった。
「……なんか、雰囲気あるな。」
橋の上で車を停め、外に出る。深夜の森は異様なほど静かだった。遠くでフクロウが鳴く声が聞こえるだけだ。
「なあ、噂だと、この橋の上で誰かが後ろから囁くって話、知ってるか?」
拓也が不気味な笑みを浮かべながら言った。
「やめろって。帰ろうぜ。」
「お前がビビる顔、見てみたいんだよな。」
そう言って、拓也は橋の欄干に手をかけた。俺は胸騒ぎがして、彼の肩を掴もうとした。
「……うしろ……」
背後から、か細い女の声が聞こえた。
「……なあ、今の聞こえたか?」
拓也も青ざめた顔で俺を見た。
「おい、冗談ならやめろよ……?」
「俺じゃねえよ!」
冷たい汗が背中を伝う。俺たちは慌てて車に駆け込もうとした。だが――
カツ……カツ……カツ……
橋の上で、ハイヒールのような足音が響いた。
「誰かいる……?」
振り向くと、そこには白いワンピースを着た女が立っていた。髪は長く、顔はうつむいていて見えない。
「……ねえ……」
女が、ゆっくりと顔を上げた。その瞬間、俺たちは絶叫した。
目がなかった。
女の顔は、のっぺらぼうのように目だけがくり抜かれ、真っ黒な穴が空いていた。
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