血の気を感じない色白の肌とこの世の全てを憂い、視界に入るものの全ての温度を奪っているかのような冷たい目。
何となくその姿を見やると「何見てんのよ」と言わんばかりに冷凍目線ビームをこちらへ向けてきた。
慌てて視線を外す。
手にはいつも通り細い鎖がグルグルに巻かれている。
これが彼女にとっての平常運転だ。
こいつは正しく不思議ちゃんと呼ばれる部類の女であり、またなんの因果か俺と同じ高校に通う同級生でもあるのだった。
クラスは違えど同じ学年で、ほかのクラスに手に鎖を巻いてる変な奴がいるという噂が回ってくるくらいには俺の高校では有名な女で、付けられたあだ名も単純明快に『鎖』だった。
俺と同じくここらへんに住む住民らしいのだが基本的には鎖の方が早く登校するため通学時間は被らない、しかしたまに朝が起きれなかったのか、はたまたのんびり朝ごはんを食べていたかで家を出る時間が遅れたらしき日にはこうして俺と通学時間が被るのだった。
「今日は…ちょっと涼しいな」
「…………」
ポツリと呟く。
無視された。
まぁ知ってた。
鎖は俺の言葉を蝉の声かなんかと同等に扱っているようで、無視して広げた本を読み進めている。
声をかけたのはこれが初めてという訳では無いが声をかけた後に辿る結末は毎度のこと同じだった。
実は彼女とは過去に1度だけ朝の通学とは別で関わりを持っている。
学校の帰りに帰宅がてら、たまには甘いものでも食べたいなと思い立ち駅中のケーキ屋さんに立ち寄った事があった、そこで出くわした。
彼女は絡まれていた、ナンパ師らしき男に。
よほど鎖の容姿が気に入ったのかかなりしつこく絡んでいた。
きっと彼の中ではこのチャンスを逃すまいとしていたのだろう、相手は未成年だろうに。
そのナンパ師と同類なのかもしれないが俺自身鎖の事が気になってはいた身ではあったので俺も名乗りをあげようとその間に割って入った。
まぁ案の定揉め事になったのだが最後は駅員さんに俺が助けられた、鎖はというと俺が割って入ったのをカモフラージュにしれっとその場から逃げおうせていた。
なんというか。
その後、その件がきっかけで心の距離が縮まっていたりしないかと気になって朝の登校が被ったタイミングで話しかけたりしたが、まぁ無視された。
縮まってはいなかったらしい。
その後も特にイベントは起きず今日に至る。
きっと今日もバスが来るまで無言の静寂がバス停を支配する。
そう思っていたが。
えっ、最後びっくりした
「床に落ちた何か」てなんだったの?