それは高校2年の春だった。
元々は見える側の人間ではなかったはずだが高校1年の一学期に身の毛もよだつような体験をして以来、俺の中には本来芽吹くはずの無かった才能が芽を出しツルを出し、今では花を咲かせようとしていた。
まぁそれは俺の植木鉢に横から水を注いでくる人間が居たからというのが大きかった訳だが。
色んな物が見えるようになった。
路地裏に佇む影、マンホールから伸び出る手、鉄塔を登る霊。
芽吹いた才能にまだ慣れなかった頃はその、人だった者、人ならざる者を目にする度になんだかゾワゾワしてしまったものである。
そんな俺もこの頃にはだいぶ慣れ初めていた。
もう大抵の事には驚かないだろうとタカをくくっていた矢先、俺はそれに出くわしたのだった。
「渡辺さん、この部屋で終わり?」
「あっ、はい…そうっすね」
「そしたら2号室で休憩とるから来てね」
トイレットペーパーの端を三角に折りながらパートのおばはんに返事をする。
友人にやたらとスイーツビュッフェやらケーキ屋さんやら和菓子屋さんやらに付き合わせてくる奴が居たせいで親から貰うお小遣いでは首が回らなくなっていた俺は高校近くのビジネスホテルの清掃のアルバイトを始めたのだった。
県内で最も栄えている土地のためかそのホテルのデカさと豪華さに面接を受けた時は面食らってしまった。
しかしいざバイトを始めてみるとそのホテルの内情には流石の俺も鼻白んだものだ。
表向きは歴史ある長くお客様に愛されてきたホテルと売り出しているが実際はただの使い古しだらけだった。
デスクは所々お客様の見えない部分が剥がれかかってるし、洗面所のコップの底はほんのり黄ばんでいるし、ベッドのシーツを剥がせば何年物なのか分からない謎のシミがマッドに散見できるし、ベッドをどかせば床には穴が空いてるし、なにより床のカーペットは30年以上交換どころか掃除機がけ以外のまともな清掃をしていないという。
さすがにこの事実を知った際には俺も床に膝をつけなくなってしまったものだ。
ベッドを組み終わり一通りミスがないか部屋を見て回る。
メモ帳も使ってないか確認しておかないと。
たまにお客様の走り書きがそのままになってる事があるからだ。
備え付けのメモ帳を開く、すると何やら絵のような物が描いてあった。
ビル?らしき建物の側面に巨大な虫の繭のような物が張り付いている絵だ。
繭からは気持ち悪い虫みたいな生物が飛び出していて、さらにその気持ち悪い生物を空から伸びた謎の手が鷲掴みにしている。
意味が分からない、何を思ってこれを描いたのか。
俺はそのページをちぎってくしゃくしゃにするとポケットへ仕舞い、その部屋を売り出しの状態に設定するとパートさん達が待つ2号室へと向かった。
けっこうこわかったです。
さすがに44Pもあると途中で挫折しました。
ぜひ今度5Pくらいの短縮版を書いてください。
怖くはない。だが悪くはない。
しんれいかいきみすてりーふうの、とあるぼうけんたん、ちょうへん。
主人公が俺っ娘だとは、ある一節まできがつかなかった 。
いつも空いている席の正体に続く、二作品目読ませていただきました。ジャンルとしては、心霊というより田舎・伝承系でしょうか。
師匠シリーズ、なつのさんシリーズのように登場人物に統一性があり、続編小説を読んでいるようでとても面白いし、なるほど、と思える話でした。次の話も楽しみにしています。
一作品目の話と、こちらの話は、朗読させていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
俺は高2なのに1コ上の石野さん大学生なんです?