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呪い・祟り

きのこさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

呪うもの
長編 2024/12/23 12:49 293view

 幼い頃に一度だけ母に、あの部屋に入るのが怖い、と相談した事があるが、

「口に出すと寄ってくる、誰にも言ってはいけない」

 とだけ言われ、理由は教えてくれなかった。

 ———なんで何かがいると分かっているのに、部屋に行かせるんだろう……。

 そう思ったが、母の有無を言わせぬ態度に、私はどうすることもできなかった。私の家では、母の言うことは絶対なのだ。それに、私にしか視えないもののことを、他の誰かに相談することもできない。ただ恐ろしいのを我慢して、誰にも話さずに過ごしていた。

 そんな状況に変化が現れたのは、ある年のお盆だった。

 お盆の墓参りに来ていた従兄弟が、支度部屋の右上を指差し、

「この部屋に入るの、怖くないの?」

 と訊いてきたのだ。

 従兄弟は霊感はなく、初めて嫌な気配を感じたと言ったので、おそらく我が家の支度部屋でだけ、何かを感じたのだろう。

 霊感がない人間は、人ならざるものを認識できないので怖がることはなく、そもそも、いるとも思っていない。たとえ気配を感じても、何かがいるかも知れない、と理解するには時間がかかる。繋がってこないと分からないからだ。

 従兄弟のように初めて体感して、「あそこに何かいるよね?」なんて明確に言い当てる事はない。

 支度部屋にいる何かは、それ程存在感が強いのだ。仏壇の間にも強力なのがいるが、従兄弟はそちらには気付いていなかったので、やはり霊感があるわけではないのだと思う。

 私からすれば、仏壇の間にいる男の子の方が、よほど存在感が強いような気がする。ただ、彼が私にしか興味がないので、他の人は感じる事ができないのかも知れない。

 なぜ我が家には、力が強い化け物たちが集まるのだろう。

 そして、なぜ私ばかりが被害に遭うのだろう。

 その謎は解けないが、従兄弟が嫌な気配に気が付いてくれたことが嬉しかった。『自分だけじゃない』と分かって、それだけで、心が救われた気がしたのだ。

 おそらく母も、あの部屋に何かがいると気が付いているが、母は何事もないかのように過ごしていた。

 どうせ訊いても、何も教えてくれない。

 私はもう、母に期待するのはやめたのだ。

 ある年の秋に法事があり、親戚が大勢集まった。

 早く来た親戚の幼い男の子は、支度部屋の中にボールを投げて遊ぶ。最初は小さな部屋の壁にボールがぶつかり跳ね返ってくるので、楽しそうにしていたが、しばらくすると、突然泣き出した。

 ———あぁ。小さな子供は視える子も多いから、気付いたんだろうな。

 あの部屋に何かがいることを知っている私は、そう思いながら男の子を見つめる。

 すると母が、スッとその子に近寄って、「あの部屋には入っちゃダメよ、危ないからね」と、言った。

 部屋の右上を見ながら———。
 支度部屋の中には、子供には動かせないような大きなタンスしかない。危ないのなんて、上から殺気を出している奴しかいないので、

 ———やっぱり危ないと分かってるじゃないか。

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