父の人生
投稿者:太山みせる (37)
私は……父が……好きでした……
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私、立花優美(たちばな・ゆうび)は、漁業が盛んな町で、裕福な実業家の一人娘として生まれました。
そこはとても豊かな町で、学校や病院などの施設も充実していて福祉も厚く、誰もが住みやすく幸せな町だと思っています。
ですが私が生まれる前は、あまり娯楽の少ない淋しい村だったそうです。
そんな村を私の父は、たった数年で豊かな町にしたのです。
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昭和に生まれた父は、若い頃はとても貧しかったそうです。
小さい家に両親と、キヨ婆と呼ばれる遠縁のお婆さんの4人で暮らしていました。
父の両親はマトモに働かず、遊んでばかりいたそうです。
二人は元々いた土地で、お金を借りまくっては、親兄弟に迷惑をかけていました。
ある日とうとう追い出されて、遠縁のキヨ婆を頼って、押しかけてきたのです。
キヨ婆は1人暮らしで淋しかったのか、そんな2人を受け入れました。
やがて夫婦に子供ができて、それが父なのですが、父が生まれても夫婦は、生き方を変えようとはしませんでした。
面倒臭い子育てはキヨ婆に任せて、朝から飲んだくれたり、ギャンブルをしたりしていたそうです。
キヨ婆はいつも優しくて、父を可愛がってくれました。
物心ついて、父は親という存在の意味を知り、両親に構ってもらいたくて甘えてみました。
ですがどちらも、構ってくれたのは機嫌が良い時に、それも少しだけだったそうです。
酷い時にはちょっと話しかけただけで、ウルサイという理由で父は殴られました。
親子で仲良くしている他所の家族が、羨ましくて仕方がなかったと言っています。
夫婦は面倒なことは一切やらなかったので、父の名前をつけたのもキヨ婆でした。
『優しい』の『優』の字と、『成し遂げる』の『成』の字を合わせて、『優成(ゆうせい)』と父は名付けられました。
大好きなキヨ婆がつけてくれた名前なので、父はとても気に入っています。
キヨ婆は占い師でした。
腕が良く、遠くからもお客さんがやって来たそうです。
ですがどんなに当てても、キヨ婆は僅かなお金しか貰いませんでした。
また、ギャンブルの占いはできませんでした。
父の両親はお客さんから大金を取ろうとしましたが、キヨ婆はそれを阻止しました。
だから家族は貧しいままでした。
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