夢遊病
投稿者:きのこ (5)
小学校の高学年だった頃、私は夢遊病に悩まされていた時期があった。
夜中に寒くなって、震えながら目覚めると、なぜか部屋の外にいた。
寝相が悪くて布団からはみ出している、くらいなら分かるのだが、押し入れの中にいたり、家族3人を乗り越えて廊下に出ていたり、酷い時は階段の下にいたこともある。
いくら寝相が悪いにしても、そんな離れた場所まで移動しているのはおかしい。しかも、押し入れの中で目覚めた時には、丁寧に扉も閉められていた。
そして移動中の記憶は、一切なかった。
私の実家は江戸時代から続く、とても古い家だ。
建物自体は何度か建て替えられているが、土地自体はそのままらしい。
そして今現在の家も、祖父が若い頃に建てた家なので、かなり古くなっている。
歩くと床はギシギシと音を立て、ラップ音なんて当たり前。和風の木造住宅で窓が少なく、広い家の中には光が届かないので、昼間でも部屋の中は真っ暗だ。
家の周りは山や谷に囲まれていて、夜になると周辺はざわつき出し、姿の見えない何かが家の中を徘徊はいかいしだす。
「女の幽霊が出た」
「誰もいない部屋から声が聞こえた」
「何かいる気配がする」
私は幽霊が出たと騒ぐ人たちを見かけると、いるだけなんだからいいじゃないか。と少し冷めた目で見てしまう。
霊感がない人たちにとっては、別にぶつかったり殴られたりするわけではないし、声も聞こえないのだから悪態あくたいをつかれても分からない。
害が無いなら、空気と一緒だ。
私が卑屈ひくつな感情を抱いてしまうのには、色々と理由わけがある。
実家の一日中陽が当たらない急階段には、厄介な奴がいた。
私は霊体だと顔は分からない筈なのに、何故か階段に突然目が現れて驚いたり、足を掴まれて引っ張られたりして、何度階段から落ちたか分からない。
悪戯いたずらをされるのは大体私と、おそらく霊感があるであろう母だった。母は、この家の血筋の人間だ。
急な階段なら、つまずいただけじゃないの? と思う人もいるかもしれないが、足には赤い手形や、引っ掻いた跡が残っていてヒリヒリと痛む。気のせいには出来ない状態だ。
それでいて、殺気は感じたことがないので腹が立つ。
ただ、自分のことが視えそうな人間が来たから、脅かしてやろう。くらいのものだと思う。反応してしまったら、こちらの負けだ。
母は何事もなかったかのようにその場をやり過ごし、後で物にあたっていたが、私は何度かその場で泣いてしまったことがある。
そして、家には曰いわく付きの人形が何体もあったり、
家を呪いたいご先祖様がいたり、
悪意はないけど取り憑かれると、災いが降りかかる子供がいたり、
寝ている時に見えない何かに腹を、切り裂かれそうになったりするような家だ。
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