呪うもの
投稿者:きのこ (12)
小さな部屋の天井から、何かが私を見ている。
ゆっくりと上に目をやると、突き刺さるような視線を感じた。
睨んでいるのか、見下しているのかは、分からない。
視線はずっと、ついてくる。
暗闇の中から覗く細い目が、私をどこまでも追いかける。
私が一体、何をしたというのだろうか。
古い日本家屋の一角にある、小さな部屋。
今はタンスが置かれ、物置部屋として使われている小さな部屋は、着物を着替えるための支度部屋だ。
都会に住んでいる人には馴染みがないと思うが、田舎では、葬式や法事を個人宅で行う事が多い。そしてその際に、女性は着物の喪服を着ていたので、その人達が着替えや準備をする為に使われる部屋だ。
男性が5歩しか歩けないくらいの小さな支度部屋は、壁の一面は全て押し入れになっていて、窓がないので、年中陽が入らない。
私が支度部屋の扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ出てくる。
———入りたくないな……。
毎回そう思いながら、中へ足を踏み入れる。
薄暗い部屋の中が涼しいのは、陽が当たらないせいだ、と思いたかったが、部屋の中へ入ると、ずしっ、と押しつぶされるような感じがして、全身の皮膚が粟あわ立つ。
部屋の上の方から、何かが私を見ている。
突き刺すような視線を感じるのだ。
目の前に血だらけのナイフを持っている人が立っていて、その人が自分の方を睨んだとしたら、大半の人は心臓が苦しくなるほどの早鐘を打ち、全身の毛が痛いほど逆立って、呼吸も苦しくなるだろう。
そんな風に感じる、悪意剥むき出しの視線だ。
———やっぱりまた、見てるよね……。
恐る恐る右上を見上げると、真っ暗な隙間のようなものが視える。周りは黒い靄もやに覆おおわれていて、電気をつけても暗い部屋と、同化しているように視えた。
そして目を凝こらすと、暗闇の中にいる何かと視線がぶつかる。
こちらを睨み付ける細い目と、手だ。
目と手があるということは、元は人間の形をしていたのだろうか。
不思議なのは、目が視えることだ。私は人ならざるものが視えたとしても、顔のパーツが分からない。それなのに、暗闇の中には目が視える。
それはもしかすると、向こうが私に姿を視せたいからなのかも知れないが、目と手しか無いなんて、そんな状態のものは他ではあまり視た事がない。目が視える度に、私は息を呑む。
もちろんそんな部屋には行きたくなかったが、タンスが置いてあって、自分の服もそこに入っていたので、行くしかなかった。なるべく暗闇を視ないようにしていても、部屋に入る度に殺気を感じ、恐ろしくなる。
———もしかしたら、あれが暗い穴から這はい出てくるかも知れない……。
私は急いでタンスの中にある服を取り出し、逃げるように部屋を出た。
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