奇々怪々 お知らせ

心霊

きのこさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

子供が泣く家
長編 2024/12/23 13:42 315view

 私は、先輩が住むマンションの前で立ち尽くしていた———。

「家の中に何かがいるので、見に来て欲しい」

 そう言われたが、マンションの前に立つと、すでに嫌な気配を感じる。何も聞いていなくても、ここには人ならざるものがいると分かった。

 空は眩しいほど青く晴れ渡っているはずなのに、マンションの周りは薄暗い。私の目には、まるで山の中の日陰になった場所みたいに、緑と茶色を混ぜたような色の空間が広がっているように視える。

 他の人たちには見えないその異様な空間は、心霊スポットや、禁足地きんそくちによく見られるものだ。生きている人間は近付いてはいけない場所。私だって、出来ることなら近寄りたくはない。
 
「やっぱり、帰ろうかな……」

 ぼそりと呟つぶやいてみたが、そんなことは許されない。たとえこのマンションがよくない場所だと分かっていても、私はもう、中に入るしかないのだ。

 先輩のお願いは『絶対』の意味で、私には何の拒否権もない。

 先輩に来いと言われた私は、覚悟を決めて、不気味なマンションへ足を踏み入れた———。

 高校時代にアルバイトをしていた先の、明るく活発な女性の先輩は、霊感が強い人だった。彼女は生きている人間と同じように、霊体がはっきりと視える。

 私もたまに視えてしまう事があるが、それは一部の友人しか知らない事だ。知られてしまうと碌ろくな事がないので、普段は自分からは絶対に言わないし、気付かれないようにしている。

 もちろん、怪奇現象が次々と起こるアルバイト先でも、それは秘密にしていたが、私は取り憑かれやすい体質なので、嫌な気配がする所へ突っ込んでいく訳にはいかない。その為、バイト中はそういった場所は避けて歩くようにしていた。

 すると、先輩は霊体がはっきりと視えているので、他の人達はぶつかるのに、私だけがそれを普通に避けながら歩いている、というおかしな状況が分かってしまう。先輩は私に霊感がある事を、すぐに気付いた。

 最初に「視えるんだね」と声をかけられた時、あまり人に知られたくないと説明したので、言いふらされたりはしなかった。しかし、それからというもの、彼女は会う度に何かを言ってくるようになる。私が嫌がるのを面白がっているのだ。

「店の近くにある貯水槽の縁ふちには、いつも男の人が立ってるんだよ」とか、

「奥の部屋のお客さん、ヤバイ生霊連れてるから見て来なよ」とか、

「今日は、いつもトイレの通路にいる女の人が2人に増えてるんだけど、気付いた? ねぇ、掃除行ってきてよ」
 とか、

 いつも楽しそうに、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言ってきた。

 私はまだ高校生で、車を持っていなかったので、大きな物を買いたい時には、車で連れて行ってくれるような優しい面もある人だ。しかし、帰りには、人ならざるものがいる交差点をわざわざ通って、いらない解説をしたり、心霊スポット巡りをされたりする。

 自分も人の事は言えないけれど、

 ———いい性格してるな。と思った。

 そして彼女は、私が実家の仏壇の間にいる、死神みたいな男の子に取り憑かれた時には、一瞬も悩まずに見捨てた人だ。あの男の子は、霊感が強い先輩の目で視ると、相当良くないものだったらしい。

 彼女の言い分としては、家族が巻き込まれたらどうするんだ、という事だったが、せめて心配くらいはしてくれてもいいと思う。バイト仲間には「仲が良いよね」などと言われたが、私はそんな事は1度も思ったことはない。
 私は彼女の玩具おもちゃでしかないのだ。

 
 そしてある日、先輩に肩を、がしっと掴まれた。
 
「ねぇ、お願いがあるんだけど」

1/5
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。