御手手之経文
投稿者:楽普通 (2)
私の友人(Rさん)から聞いた、そのまた友人のGさんについてのお話をさせてください。
GさんとRさんは私立H高校で知り合いました。Gさんはここに来る前は県を二つ跨いだ所に住んでいたそうなので、高校進学後は友達などはいなかったそうです。ホヤホヤの高校1年生で溢れていたころの教室で、Gさんは教卓から見て左から2列目、前から2つ目の席でジッと手元を見ている様子で、あまりに真剣に見つめていたようなので周りも話しかける気になれず、時期も経つにつれてGさんは独り孤立していきました。Gさんのことを同情したRさんは勇気を出して近づいたそうです。すると、GさんはRさんを通して次第にクラスに馴染むことができたらしく、級友の皆んなとの間の隔たりは跡形もなく消し飛んだようでした。ただ、RさんがGさんに初めて話しかけたその時に気付いてギョッとなったのが、手元の何かを見つめていると思われていた仕草は実は両手に筆ペンで写経をしていたものだったらしく、掌は夥しい数の漢字でびっしりと埋まっていたそうです。最初は全員それに驚愕しましたが、普段は口数が少ないGさんでも口を開けばお喋りが上手だそうで、だからすぐに馴染めたそうなのです。やがて、高校に入って初めての夏休みが始まりました。クラスでは少し離れた心霊スポット(?)に4、5人で行こうという話になると、Gさんが真っ先に誘われたそうです。心霊スポットで幽霊に襲われてもGさんのお経パワーとやらでなんとかなるだろうという安易な考えのもとだと聞きました。Rさんはオカルトを面白くは感じるけれども、軽んじるようなことはなく、自らそういう場所に赴くことはしなかったので、Gさんが行くからといってその輪に入ろうととは考えていなかったと言います。Gさんはその誘いに二つ返事で応じたそうで、その後Rさんのもとに駆け寄って初めて誘われたよ、と満面の笑みで話すぐらいには心底嬉しかったようです。
夏休みも折り返して宿題の不安が募り始める頃、Rさんの携帯に一通のメールが届きました。
「Wたちがおらんなった」
「なんやかわからん。警察も動いとる、なんやん」
Wとは肝試しグループのメンバーの1人で、結局そのWとGさん、男子1人と女子2人の計5名が向かったのだそうです。そして、その全員が日を跨いでも帰ってこないのだと聞かされます。それを知ったRさんは唐突の報せにしばらく虚無となり、我に帰るとすぐに他のメンバーの安否についても聞いたそうです。既読がついて、微かな期待を胸に抱いて返信を待っていましたが、帰ってきた答えは現実を突きつけてきました。
「他も全員やで、皆んなおらんなった」
突然の失踪に現実味を感じることができずにいたRさんはその夜は布団に入ることを忘れたまま過ごして気付けば朝を迎えていたそうです。翌朝のことです。失踪していた5人のうちの1人であるR2さんが何事もなかったように帰宅したことを級友に教えてもらったそうです。あの5人に何があったのか、直ちに知りたいと思ってR2さんに電話をかけようとしたそうですが、彼女のメンタルを考えて日を改めることにしたそうです。彼女を追い詰めない程度に状況を聞こうと思ってL○NEでメールを送ったそうなのですが、既読はほんの数秒でつくものの、10分おいても応答がない。何か文字が打てない理由があるのではないかと考えたRさんは電話をすることにしたそうです。R2さんは電話にはすぐに出たそうなのですが、なんだかいつもとは違う、声は確かに本人だが、声に纏わりついている雰囲気がどこか機械音声のそれっぽい、とRさんは言います(言わんとしていることは分からなくもないですが、正直に言うと筆者は理解はしていません)。
「ん…、何?」と平たい声でR2さん。思っていた反応ではなかったため携帯を隔てたその空間に変に緊張が走っていたようで、Rさんはつい気後れして丁寧に質問します。
「あ、あの、えっとGさんとか、Wくんとか、ほら、他の人たちは何処行ったんかなって?」
「……知らん……。でも……」
「でも?」
「手だけね。G焦ってたんよ。すごく綺麗なってて。あんまりにキレイやったから、〇〇様は拾いきれなかったんよ(R2さんの発言にある『〇〇』には、山の名前が入ります。)」
「結局ね、うち、逃げてしまったんよ。皆んなの助けてって声が聞こえてね。怖くなってここまできたんよ。でもね、うちもすぐに行かないかん気がしてね……」
Rさんから聞いたR2さんの発言をそのまま書いたつもりですが、何を言っているのかはさっぱり分かりません。Rさんも当時、同じ状況でいたそうで、どういうことなのか聞き返したそうなのですが、その直後、R2さんは何も言わずに電話を切ってしまったそうです。同日にR2さんはまた行方不明になってしまいます。後日の報せでは、5人全員が見つかっていないことと、〇〇山の麓で切断された両手が見つかったということ、後の検査でそれらがGさんのものだということが分かった。傷もない泥もついていない真っ白な手だったそうでRさんは違和感を覚えたそうです。ですが、そんな事実を知ったRさんの気はまともでいられるわけもなく、その違和感について冷静に考えられる頭はなかったそうです。
結局、彼らは未だ見つかっていないそうです。何も判明しないまま時間は過ぎて今に至ります。
私が不気味に感じたのが、この話をしている最中、Rさんはずっと笑っていたのです。どうしても気になって最後に聞いてみました。
「すごく楽しそうだね?」
「え? 顔に出ててた? だってそいつら、山の神様を軽んじてちゃんと罰を受けとるんよ」
Rさんの言う通りたしかにそうも考えられましたが、私にはどうにも終始口角を上げて満足そうに笑うRさんの顔に恐怖を覚えたようです。
※RさんとR2さんはイニシャルがどちらもRだったのでこのような区別をさせていただきました。
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