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不思議体験

kwaidanさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

あの犬
短編 2024/11/18 09:07 261view

これは、職場の同僚・鈴木さん(仮名)が語った、ある恐ろしい体験談だ。

その日、鈴木さんは目覚めた瞬間に妙な寒気を覚えたという。

朝のテレビではニュース番組が流れていたが、映像はどこか不鮮明で、アナウンサーの口元が映っているのに声だけが遅れて聞こえてきた。

時計を見ると出勤前のいつもの時間。

しかし、何かが違う。いつもの朝にしては、部屋が妙に静まり返りすぎていた。

急いで家を出て地下鉄に乗ったが、車内でも違和感は消えなかった。

吊り革に掴まる乗客の手が、まるで影のように薄ぼんやりとして見えた。

視線を下げると、自分の足元だけが光を吸い込むように暗い。

「疲れているだけだ」と自分に言い聞かせたが、隣の席の女性が何かを小声でつぶやいているのが耳に入る。

ふと見ると、彼女は鈴木さんの方をじっと見つめてこう言った。

「逃げないと、あの犬に連れて行かれるよ。」

その瞬間、地下鉄の車内全体が真っ暗になり、鈴木さんは短い悲鳴を上げて気を失った。

目を覚ますと、自宅のベッドだった。

しかし、妙に記憶が曖昧で、目覚まし時計の針は朝を指したまま止まっている。

混乱しながら部屋を見回すと、冷蔵庫からバナナが消え、リビングのサボテンに白い花が咲いているのを見つけた。

それは長年咲かなかったはずの花だ。

「これはただの夢の続きだ」と言い聞かせるも、その花びらが微かに脈打つように揺れているのを見て、全身が凍りついた。

気味の悪さを振り払うように外へ出た鈴木さんは、数日前に拾った子犬のことを思い出した。

近所の神社で迷っていたその子犬は、あまりに人懐っこく、なぜか鈴木さんをじっと見つめ続けていた。

その目は、犬というより人間のように湿っぽく、何かを訴えるような光を宿していたのだ。

「そうだ、あの犬が何か関係しているかもしれない。」

そう思った鈴木さんは再び神社を訪れることにした。

しかし、境内に入った瞬間、体が動かなくなった。

空気が重い。視界の端で影が動いたように見え、鈴木さんは振り返った。

そこにいたのは、拾ったあの子犬だ。

だが、その姿は徐々に変わり始めた。

毛が抜け落ち、むき出しの皮膚が湿った音を立てるように裂けていく。

目は暗い穴のようになり、
体から溢れ出す黒い液体が地面に吸い込まれていく。

その液体の中から無数の手が伸び、「戻れ、戻れ」と鈴木さんにささやきかけた。

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