祠に消えた約束
投稿者:kwaidan (17)
これは、北陸の小さな町に住む佐々木さん(仮名)から聞いた話だ。
彼の住む町には、古い風習がまだ色濃く残っている。その町外れにある古びた和菓子屋の息子、北村健太(仮名)という青年がいた。健太は家業を手伝いながら、昼間は工場で働き、夜は実家の和菓子作りに精を出していた。地元の人たちに親しまれ、祭りやイベントごとがあると、必ず店先で笑顔を振りまいていたという。
だが、そんな健太には、誰にも言えない秘密があった。彼は、近くの神社にある古い祠に毎晩通っていたのだ。その祠は、町の古老たちが「あそこだけには近づくな」と口をそろえて警告するような、忌み地とされる場所だった。健太はなぜか、その祠の前で夜な夜な長い時間を過ごしていたらしい。その理由を問い詰めると、彼はただ「ちょっとした勉強のためだよ」と苦笑いを浮かべるだけで、それ以上は何も話そうとしなかったという。
ある日、佐々木さんが健太に出くわしたとき、彼は妙に焦った様子だった。いつもは穏やかな表情を見せる健太の瞳が、その時だけは異様な光を帯びていた。まるで何かに取り憑かれたかのように、震える声で「最近、見てるんだろう?」と尋ねてきたという。その質問の意味が理解できず、佐々木さんはただ首を横に振るしかなかった。
数週間後、健太は姿を消した。そして、その数日後、山の中の祠で彼の遺体が発見された。死因は不明。現場の状況からは、事故とも自殺とも他殺とも判断がつかず、警察は困惑していたらしい。ただ、健太のポケットには「やっぱり、僕も同じだった」という走り書きのメモが残されていた。まるで、自分自身への言い訳か、あるいは誰かへの告白のようにも読めるその言葉。
健太の死後、さらに奇妙なことが起きた。彼が関わっていた町の人々や場所が、次々と変わっていったのだ。彼が何度も足を運んでいたという地元の陶芸教室は突然閉鎖され、教室を開いていた講師は「身辺整理のため」と言って町を去った。そして、健太と親しくしていた隣町の古物商は、無言のまま店を畳んでどこかへ消えてしまったという。まるで、健太の死を契機に、何かが動き出し、真実を闇の中に押し隠すかのように、関連する人々が町から消えていったのだ。
佐々木さんは今でも、健太が最後に発した「見てるんだろう?」という言葉の意味が理解できないままだ。しかし、健太の死と、その後の不可解な出来事の数々が、ただの偶然ではないような気がしてならないという。
時が経ち、町の人々は健太の死を「悲しい事故」として受け入れようとしているが、佐々木さんの心には未だにその後味の悪さが拭い去れない。健太の最後の言葉と、彼を取り巻く人々の突然の変化。その背後に、古い祠にまつわる何かおぞましい秘密が潜んでいるような気がしてならないのだ。
タイトル、誰と誰のなんの約束のこと?