ただそこにいるだけのものたちへの鎮魂歌
投稿者:ねこじろう (147)
その時雲一つない秋空に、一個の白い風船が舞い上がった。
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ある朝大島がいきなりアパートの一室で目覚めた時、彼は自分が何者で今まで何をしていたのか全く思い出せなかった。
何故か黒いライダースーツを着ている。
傍らのカーテンの隙間から外を覗くと、路地とブロック塀が見えた。
空はどんより曇り空のようだ。
しばらくベッドの中で天井を眺めながらいろいろ考えていたのだが、やはり何のヒントも得られない。
しょうがないので彼は室内をうろついてみた。
6帖ほどのワンルームのようだ。
横になっていたベッドは窓際にあり、あとは反対側の壁際にクローゼットとソファー。
ソファーの前にはガラステーブル。
特にこれといった特色もない、ありきたりな間取り。
玄関傍らに洗面所があるので、大島はそこに行き姿見を覗いてみた。
そこには茶髪で色白な20代くらいの男性が映っている。
彼はしばらく鏡とにらめっこしていたが、やはり何も思い出せないので玄関口にあったスニーカーを履き出かけた。
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曇り空の下、大島がブロック塀に挟まれた路地の真ん中をしばらく歩いていると、前方からランドセルを背負った小学生の一団が奇声を発しながら右手を走りすぎていった。
しばらくすると二人組の主婦らしき女性らがペチャクチャ世間話を交わし合いながら左手を歩きすぎていく。
どうやらこの辺りは住宅街の一角のようだ。
そう分かると少し大島はほっとした。
そしてまた歩き続けていると、前方右手にある電信柱の傍らに農作業着姿で大柄の老人がうつむき立っている。
彼はここがどこなのか聞こうと、思いきって男に声をかけてみた。
「あの、、、」
すると男はびくりとして顔を上げる。
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