ただそこにいるだけのものたちへの鎮魂歌
投稿者:ねこじろう (147)
その顔を見たとたん大島はドキリとした。
微かに覚えがあったからだ。
ごま塩短髪の下の顔は赤銅色に日焼けしており、額には数本の皺がある。
さらに目を引いたのは男には左腕がなかった。
━ううう、、、
感極まったような表情で何か言いたげに呻き声をだしながら右手を付きだし、大島に近づいてくる。
気味悪さを感じた彼は思わず後ろに二、三歩下がると、踵を返し走り出した。
やがて路地を抜け大通りらしき道に出ると、その歩道を歩きだす。
しばらくすると前方左手に大型のスーパーが視界に入ってきた。
彼はなんとなくここに立ち寄ろうと思う。
広々とした駐車場にはたくさんの車が停車されている。
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アスファルトを真っ直ぐ歩き進み、中央エントランスの入口から店内に入る。
建物は二階建てのようで一階は食材やレストランコーナーそしてその他の生活用品店、そして二階は専門店があった。
大島は広い店内の通路を歩き進む。
一階正面奥には食材コーナーがあり、そこから左右に走る通路沿いに様々な店が軒を連ねていた。
店頭のウインドウにチラチラ視線をやりながら彼が歩いていると、主婦、お年寄り、子連れの夫婦らが、淡々とすれ違っていく。
ただその中に奇妙な者たちが紛れていた。
彼らは普通の格好をしてはいるのだが、まるで古いスナップ写真のようにセピアカラーで霞んでおり、ある者は床に足を投げ出して座り込み、ある者は通路の真ん中で呆然と立ち尽くしている。
そして不思議なことに通行人らはそいつらの存在に気付いてないかのように平然と通りすぎていく。
やがて大島は一階中央にある「憩いの広場」という場所に行き着いた。
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そこは真ん中に大型の噴水があり、その周囲を囲むようにベンチが置かれている。
広場に人の姿はあまりなかった。
死後の世界だったのか!