その日は、幼馴染と一緒に、砂浜を歩いていた。
水平線から顔を出した朝日が眩しい。
高校卒業後、のんきにフリーターやってた僕。
夏、就職を決めて地元を離れる道を選んだ僕は、別れを惜しむように、
慣れ親しんだこの砂浜で語り合っていた。
「夏でも朝は寒いね。」
自然と繋いだ冷たい手が、何よりも温かく感じる。
ずっと互いに言えなかったこの気持ちを、
繋いだ手から伝え合えているような、そんな温かい気持ち。
穏やかな波が僕の足跡を消していく。
ああ、この時が永遠に続けばいいのに。
ふと彼女の顔を見る。
「たまには帰ってきてよ」
涙ながらに、照れ笑いを浮かべた彼女が言う。
「お盆、必ず帰ってくるよ」
約束だよ、小さな声でそう言うと、彼女は手を離した。
大好きだったガーベラの花と、彼女の卒業証書をそっと砂浜に置いた。
涙は流さない。前を見て歩くよ。
一人、家路についた。
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