津田さんはあることをきっかけに登山をやめたという。
津田さんは高校で友人に誘われ山岳部に入り、山の魅力にはまった。
体が大きく体力のあった当時は、かなり無茶な工程で登山していた。
怪我をした仲間を背負って下山した事もあり周りからも頼られる存在だった。
ある年の瀬、津田さんは一人で地元の山を登ろうと思いたった。
往復五時間の日帰りコースだがその年は雪が多く、遭難者も多くでた。
ソロでの冬山登山は危険だと顧問から何度も言われていたが、若い津田さんは危険と
言われれば挑戦せずにいられない。
朝から細かい雪がちらつく中、冬の登山が始まった。
すでに何組かが登っているらしく雪についた足跡をたどるように登り始めた。
雪山は初めてじゃないが、ひざ下まで積もった雪は流石に歩きにかった。
空は灰色の厚い雲が覆っており、雪がやむ気配はない。
どんどん視界が白く染まり、風はないが降雪は激しくなってきた。
さっきまで自分が登ってきた道もわからないくらい雪がつもるスピードが早くなっている。
先行者の足跡も消えかけていた。
何度か登った山だが、その時は難易度が上がっていた。
それは津田さんにとって楽しい挑戦に思えた。
年明けには山岳部の冬合宿もある。
仲間よりも経験値を一つでもあげておきたかった。
ほぼ垂直のような急勾配をピッケルを刺しながら夢中で登っていく。
その山の難所といえる場所を超えた時、おーい、と男の人の声が聞こえてきた。
津田さんは立ち止まり、あたりを見渡した。
しかし、声の主を見つけることはできなかった。
登るのに夢中で、思ったより視界が悪くなっている事に気づかなかった。
「おーい、ここだー誰かいないかー」
声の調子から、もしかして遭難者じゃないかと津田さんは思った。
少しだけ雪がやみ、津田さんは声のする方を見定め向かった。
「すみません、誰かいますか?大丈夫ですか?」
津田さんも声を出して応えた。
声の方向へ向かうにつれ雪がやみ、視界も開けてきた。
登山道を外れていたが、構わず津田さんは歩いた。
場合によっては、相手は命の危険にさらされているかもしれない。
しばらく歩くと目の前の斜面に穴が開いていた。
穴の横にはストックと呼ばれる登山用の杖が刺さっており、これは誰かが掘った雪洞だとわかった。
雪洞とは雪山で緊急避難をする際に雪の地面や斜面に掘る穴のことである。

























これは怖いよ。
ぞくぞくした。
装備品がそのままって事は八甲田山の兵隊の様に気が狂ってしまったのかな