「く、朽屋さん・・・アレ・・・」店主が後部座席を指さす。
うなだれて、意識が無いように見える三上の閉じた瞼から、涙があふれてきて止まらない。
「キマリよ。信州へ向かうわ。こうなったら、やれるだけのことをやるしかない!!」
朽屋の駆る社用車が再び動き出す。
途中、ガソリンを補給したり、高速を降りて見知らぬ山道を走ったりしながら、
やっと第一目標の製粉工場にたどり着いた。小さなアパート程度の大きさしかないが、
ちゃんと製粉工場の名前の看板を出している。
時間はもう朝の5時になっていた。小鳥の鳴き声が聞こえ始めている。自然豊かな場所だ。
工場にはもう明かりがともっていた。朝早くから下準備を始めているらしい。
「もうやってんのかな?社長さんいるか、ちょっと見てくるから朽屋さんはここで待ってて」
店主がクルマから降り、一人で工場へ向かう。
徹夜で走って来た朽屋は少し眠くなっていた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
突然の叫び声に朽屋も目覚める。
見ると、工場へ入って行ったはずの店主が、こっちへ走ってくる。
「ど、どうしたんです?息まで切らして」
「くっ、くっちゃさん、き、来て・・・来てください!!」
動揺を隠せない店主の様子に朽屋も緊張してクルマを降りる。
店主の後を追い、工場へ駆け足で寄る。
「はぁはぁ・・・」見ると店主が工場の社長らしき人の前で息を切らしている。
「あっ!!」朽屋も、ここへきて思わず絶句した。
なんと、社長の顔が蕎麦屋の幽霊とそっくりそのまま、瓜二つの顔なのである。
「あなた、もしかして、ここの二代目社長さんですか??」
「え・・・えぇ、そうですけど・・・」
何事が起きたのかもわからず困惑する製粉工場の社長の前で、
思わず抱き合って喜ぶ店主と朽屋。
間違いない、この人は蕎麦屋の幽霊の息子なのだ。
この製粉工場の場所こそ、幽霊が帰りたかった実家に違いない。
「せ、説明は後で!!」
朽屋は急ぎクルマにもどり、後部座席の三上から、霊を引き離した。
kamaです。いつも読んでいただきありがとうございます。
今回、朽屋瑠子シリーズ9作目は、珍しく前作【アジサイ事件】の続きとなりました。
【アジサイ事件】のコメント欄で、以前書いた蕎麦屋の話の解決編も読みたいというリクエストをいただきましたので、急遽、他のネタは後回しにしてこちらを書かせていたただ来ました。
いかがでしょうか。蕎麦屋の話、解決編でした。
また次回もよろしくお願いします。
いつもの恐さと違い、ハッピーエンドで良かった。ダンスを踊る瑠子がバズっている、その後の話も読んでみたい!
クッチャルコシリーズの大ファンです!瑠子ちゃん可愛すぎる。今回の話はほっこりする癒し系の話でしたね。次回作も期待してます。
↑kamaです。コメントありがとうございます。大ファン宣言うれしいですねー。きっと朽屋も大喜びしていることでしょう。
毎回涙誘う大変ええ話を投稿ありがとうございます。特に三上と朽屋のやり取りがこの話を引き立てて良いです。
↑kamaです。コメントありがとうございます。ヴィンセント三上について今後朽屋とどのようにして出会ったかというお話も準備しようと思っている所です。いつか書こうと思いますのでお楽しみに。
朽屋瑠子シリーズはキャラたちが勝手にどんどん話を進めていくので書いてる自分も楽しいです。
ここで書くよりカクヨムとかに投稿したほうがいいんでない?