【蕎麦屋の幽霊事件】-事件記者 朽屋瑠子-
投稿者:kana (217)
朽屋がちょっとコワイ表情になって言う
「霊はね、簡単にはその場を動けないといいますけど、ひとつだけ遠くまで移動する方法があるんです」
「え・・・なんですか、クッチャルコさん怖いんですけど」ひるむ三上。
「誰か人間に憑りつけばいいんです。デスク、ひと肌ぬいでくれますよね!?」
「えっ、えっ、・・・ひっ、ひぇぇぇぇぇぇぇ」三上の断末魔が響く。
ぐったりしているヴィンセント三上をゆっくり歩かせ、社用車の後ろまで誘導する朽屋。
「もしかして、これから信州に向かうのかい、おねぇちゃん。だったらワシも連れてってくれんか? 一応その製粉所の長年の客なわけだし、顔が効くと思うんだよ」
「そうですね、でもたぶん、到着に4時間以上はかかりそうですけど・・・大丈夫ですか?戻ってこれるのは、明日になりそうですよ」
「なぁに、恩人の成仏のためだ」
・・・・・・
屋台を閉め、月刊モーの社用車が出発する。霊に憑りつかれたヴィンセント三上を後部座席に、蕎麦屋の店主を助手席に、そして朽屋がハンドルを握って走り出す。
関越自動車道と上信越自動車道を経由して行く道のりだが、さすがに4時間ぶっ通しで運転できるはずもなく、途中サービスエリアで休憩しながら進む。
「おねぇちゃん・・・いや、朽屋さん。もし、この人の実家がわからなかったらどうするんだい?・・・むしろその可能性の方が高いと思うんだ。蕎麦農家や蕎麦屋の情報を仕入れられたとして、全部は回り切れないでしょ」
「その時は、オジサンの霊に直接聞いてみます。地元に入って、霊自身が本当に帰りたいなら、風景なんかに反応して帰り道までのヴィジョンが浮かんでくることがあるんです。つまり霊を使ったナビができる可能性があります」
「へぇ~ホントかい朽屋さん、そんなことができるんかい! すごいねぇ」と、店主が感心して聞いていると突然後ろから声がした。
「オ・・・レ・・・は・・・帰り・・・たく・・・ない・・・」
「えっ!?」
突然後部座席の三上がしゃべりだした。うつむいたまま、眠っているようにしてしゃべっている。霊が三上の口を借りてしゃべっているのだ。
「・・・いまさら、どのツラ下げて・・・帰れるんだ・・・」
霊の言葉をだまって聞くふたり。
「家だって・・・もう残ってはいまい・・・オレに・・・もうかまわないでくれ・・・」
それを聞いて店主は困惑した「どうする朽屋さん・・・帰りたくないって言ってるよ。
これじゃあナビは使えんかも・・・。それにこの人が亡くなったのって、かれこれ30年近く前だ。この人の言う通り、もう実家も無くなってるんじゃ・・・?」
しばしSAで止まり思案する。
今更東京に戻っても元の木阿弥。ただの地縛霊になるのがオチ。
朽屋の力ならば、いっそここで強制的に浄化してしまうこともできる。
だが、朽屋には納得がいかなかった。
「だったら・・・あなた、なんで泣きながら蕎麦食べてるのよ・・・信州に心残りがあるんでしょ? 自殺なんかしちゃって・・・ホントは迷惑かけたなって謝りたい人とか、いっぱいいるんじゃないの?? 家族とか、親戚とか、本当は見守りたい人がいるんじゃないの??」
朽屋は思いのたけをぶつけてみた。
kamaです。いつも読んでいただきありがとうございます。
今回、朽屋瑠子シリーズ9作目は、珍しく前作【アジサイ事件】の続きとなりました。
【アジサイ事件】のコメント欄で、以前書いた蕎麦屋の話の解決編も読みたいというリクエストをいただきましたので、急遽、他のネタは後回しにしてこちらを書かせていたただ来ました。
いかがでしょうか。蕎麦屋の話、解決編でした。
また次回もよろしくお願いします。
いつもの恐さと違い、ハッピーエンドで良かった。ダンスを踊る瑠子がバズっている、その後の話も読んでみたい!
クッチャルコシリーズの大ファンです!瑠子ちゃん可愛すぎる。今回の話はほっこりする癒し系の話でしたね。次回作も期待してます。
↑kamaです。コメントありがとうございます。大ファン宣言うれしいですねー。きっと朽屋も大喜びしていることでしょう。
毎回涙誘う大変ええ話を投稿ありがとうございます。特に三上と朽屋のやり取りがこの話を引き立てて良いです。
↑kamaです。コメントありがとうございます。ヴィンセント三上について今後朽屋とどのようにして出会ったかというお話も準備しようと思っている所です。いつか書こうと思いますのでお楽しみに。
朽屋瑠子シリーズはキャラたちが勝手にどんどん話を進めていくので書いてる自分も楽しいです。
ここで書くよりカクヨムとかに投稿したほうがいいんでない?