昼頃から降り始めた小雨が、夕方にはやや強い雨に変わっていた。
遠くで雷鳴が轟いている。
「母さん、ちょっと早いけど、ボク心配だからこれから陽菜(ひな)を迎えに行くよ」
「あなた、行ってらっしゃい。濡れてるかもしれないから、タオル持って行ってください」
「あぁ、ありがとう。じゃ行ってくるよ」
K氏の家からクルマが出る。塾で遅くなる娘さんを、いつもこうして迎えに行くのだ。
・・・・・・
塾の周りには傘を差して待っている親御さんたちの姿が見える。
最近はK氏のようにクルマで迎えに来る人も増えた。
そのためか、誘導灯を持った警備員が交通整理を行っている。
3年前から塾側の配慮で実施されている。
やがて塾の扉が開き、子供たちがわらわらと出てきた。
すぐにクルマに向かう子も入れば、傘を持つ母親のところへ駆け寄る子もいる。
もちろん友達同士や、一人で帰る子たちもいる。
他人の子ながら、K氏は心の中で(気を付けて帰るんだよ)と声をかける。
一番最後になってようやく娘が出てきた。
K氏は助手席の窓を開け、声をかける。
「陽菜、こっちだよ。遅かったね」
中学校指定の紺色のPコートが、少しだけ雨をはじいて陽菜を守っている。
助手席に乗り込み、シートベルトをする娘。少し濡れて湿気を吸った陽菜の髪は、
いつもよりクシャクシャのナチュラルボブになっていた。
暗闇で、看板や信号機、それに建物の窓から射す光だけがこうこうと輝いて、
それがウインドウに落ちた雨のフィルター越しに幻想的な光を放っている。
陽菜は少し寂しそうな表情をしているものの、大きな瞳はどこか遠くを見ているようだ。
髪の先から、一滴だけ雨のしずくが頬に落ちる。
そのせいでまるで一瞬、陽菜が泣いているように見えた。
妻から渡されたタオルで陽菜の髪を拭いてあげる。
「今夜は陽菜の好きなハンバーグだって。母さんお手製のコーンスープもあるよ」
「・・・ありがと・・・」
「・・・陽菜、またあの事考えてるのかい?」
切なく泣かせる…
↑kamaです。さっそくお読みいただき感謝です。
一部ですが、より良い表現に書き換えました。よろしくお願いします。
切なくて言葉が出てこないです。
怖い話ではなくて切ない話ですね。事故で家族を失った家は本当にそうなります。