ゴミを捨てた時の話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
「は、はい…。気を付けます…。」
私はそう答えるしかなかった。
「本当に気を付けてくださいね。」
そう言う管理人の横を通り過ぎ、私はマンションへと帰った。
そんなやり取りも忘れた頃だった。
その日はゴミ収集の日だったが、ゴミが少なかったので、この日はゴミを出すのをやめた。
ふと時計を見ると10時をわずかに過ぎていた。
「10時過ぎてるのか…。」
と思った瞬間、あの日の事を思い出した。
「10時過ぎたらゴミ収集はどうなるんだ?」
そんな疑問を持ってしまうと、居ても経ってもいられなかった。
ベランダへ出ると、ゴミ収集場を見下ろす事ができた。
このマンションは作りが良くて、窓の遮音性も高い。
春先とはいえ夜は寒いから、いつもは窓を閉めていてゴミ収集の音が聞こえなかった。
「ゴミ収集車が何時に来るのか見てみよう」
ビール片手にしばらく見張っていた。
管理人の注意が効いているのか、この時間にゴミを出す人は誰もいなかった。
野良猫が多いという話の割には、この時間のせいかその鳴き声などは一切聞こえない。
私は、誰が何時にゴミを出すのかとか、10時過ぎに何人がゴミを出すのかではなく、収集する時間をただ知りたいだけなのだ。
そんな事を考えていると、一人の男性がゴミを出しに来た。
「あれ?あの人って…」
それは管理人の姿だった。
管理人は誰かに見られないようにするためか、周りをキョロキョロと見渡していた。
私はとっさにベランダの壁で身を隠すようにしゃがみ、隙間から管理人の様子を見る事にした。
「10時過ぎてゴミを出したらいけないって自分で言ってたのに…」
そう思いながら、管理人が管理人室へと戻るまで見届けるしかなかった。
ところが、さっきまで聞こえなかったはずの、猫の鳴き声が聞こえてきた。
それはかなりか細い声だったが、確実に近くにいる事はわかった。
聞き耳を立ててその場所を探し出すと、それはゴミ収集所から発せられていた。
ゴミ収集所に猫がいる。
その管理人はその後どうなちゃったかね?
管理人に化けてでるぞ!