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妖怪・風習・伝奇

ハンマカンマ倦怠感さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

「へっこまん」※犬神信仰
長編 2023/08/04 00:55 14,423view
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 これは私がまだ小学生の頃の話だ。当時私は四国のとある県に住んでいた。

 私の住んでいた団地の近所に「へっこまん」と呼ばれている地元で有名なおっさんがいた。

 なぜへっこまんなのかはわからないが、私の何世代も上の先輩達が面白がって名付けたそうだ。へっこまんは単刀直入に言うと所謂キチガイだった。

 子供や猫を包丁で切りつけたとか、近所のおばあちゃんをカッターで切りつけたとか、スーパーで万引きしたとかそんな噂がごまんとあった。私自身何度かナタを持って追いかけらた事がある。(田舎で閉鎖的な村だった為警察沙汰にもならなかった。)

 ある夏休み、私も年齢相応にやんちゃだったため、友達何人かと一緒にへっこまんにイタズラしようということになった。友達もノリノリで面白がっていたため、夏休みの高揚感もあいまり、へっこまんの家に度胸試しに行くことになった。

 そして当日、私を含めて3人(仮にA、Bとする)集まった。Aはエアガンや木刀なんかを持ってきていた。Aが言うには「へっこまんは何するかわからないから、念の為だ!」だそうだ。

 時刻は昼間、まだ陽が高い位置にあり、心霊的な恐怖はないと思っていたが、へっこまんの家に着くと雰囲気は一変した。昭和のはじめ頃に建てられたであろうその家は、リフォームもせず2階の屋根は一部老朽化により崩れており部屋が雨ざらしになっていた。

 もともと気が弱く乗り気ではなかったBは「もう帰った方がよくね?」と早々に根を上げていた。そんなBをよそに私とAは、Bを弱虫扱いし、玄関に入った。

 鍵は開いており、中はやけに広く、物が散乱し、湿っぽいカビの匂いがした。玄関の正面右手側に2階へと続く階段があったが荷物が重ねられており、上へは登れなかった。仕方無く一階を散策しようという事になり私たちは奥に進んだ。

 足の踏み場もない廊下を先に進むと、仏間のような場所があった。しかし仏壇のあるべき場所には小学生が粘土で作ったような、大きめの気味の悪い神棚のような、簡易的な神殿のようなものがあった。そしてその神棚の前にへっこまんは正座していた。

 私たちは人の気配もなかった家の中に突然へっこまんが現れて「うわっ!」と悲鳴をあげてしまった。
 しかしへっこまんは普通の拝み方とは少し違う違和感のある手の合わせ方(裏拍手をしているような)をして、ずっと神棚に祈っていた。

 神棚をよく見ると、猿の干からびた頭部のような物が供えてあった。
 いよいよ逃げ出そうかと思っていた矢先、Aがエアガンでへっこまんを打った。弾はへっこまんの後頭部にパチーンっと当たり、私たちに背を向けて祈っていたへっこまんは、こちらをゆっくりと見た。その瞬間全身に鳥肌が立ち、声にならない「ヒュッ」という小さい悲鳴が喉から漏れた。

 へっこまんの両目が無かったのだ。

そしてこちらを見てニタァと笑うと、犬のような四つん這いの格好になり、こう言った。

 「次はお前だ。」

 足がすくんでいる私とBはAに引っ張られるようにして逃げた。その後はなんとか家に帰ってAとBそして私の両親にこっぴどく叱られた。

 私たちは1人ずつことの顛末を聞かれ、洗いざらい話した。へっこまんの目がなかった事も笑われると思ったが話した。すると親達の顔色が変わった。そして私の両親に「目は本当に見てないんだな?」と聞かれ、私とBはコクコクと頷いた。両親はほっとしたような顔をしていたが、次のAの言葉に再び表情を曇らせた。

 Aは「人の目と犬を見た。」と言った。

 Aの母親は泣き崩れ、Aの父親から私とBはぶん殴られた。
 その後Aの家にお坊さんが来て、私とBと家族達は家に帰された。私は何が何だか分からず父に聞いてもただ「帰るぞ。」と言うだけで、何も答えてくれなかった。

 あの騒動から一週間ほど後にへっこまんは亡くなった。遠い親戚が簡単な直葬のみを行ったそうだ。

 それからAの一家は引っ越してしまい、その後消息を経った。あの一件後Bとも疎遠になってしまいこの話は話していない。

 私は今年で20歳になる。先月久々に実家に帰った。この話は家族内でもタブー視されており、話す機会がなかったが、父にあの時の事を尋ねてみた。A一家はどうなったのか、へっこまんとは何だったのか。

 父は、「もう20歳だしお前は知る権利があるな。」といい教えてくれた。

 私の住んでいた地域は四国でもかつて犬神信仰が盛んな地域だった。犬神とは要するに犬の怨念を祀りあげる事により神格化し、一家に繁栄をもたらすというものだ。
 この時聞いた犬神の作り方はあまりにも残忍であったため割愛させて貰う。

 へっこまんはそんな犬神信仰をしていた一家の末裔なのだそうだ。犬神はしかるべき祀り方をしている間は一族へ繁栄をもたらすが、それが途絶えた時、今までの繁栄の裏返しのように障(さわ)るのだそうだ。
 要するに残酷な方法で作られた恨みをそのまま子孫へと向かわせるのだ。

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コメント(11)
  • 犬神系こわすぎ、、、
    このサイトでもトップクラスかも

    2023/08/04/15:13
  • ピーターラビットの話に出てくる悪いネズミの奥さんが「ハンカ・マンカ」って名前だけど、ペンネームはそこから?

    2023/08/04/20:53
  • 半魔と完魔ということです。

    2023/08/04/21:22
  • こんにちは、ハンマカンマ倦怠感です。不思議なものです西日本では犬神信仰が多く、東日本は稲荷信仰が多いらしいです。ちなみにペンネームの由来は半魔と完魔です。

    2023/08/04/23:58
  • 大体こういう妖怪系なり祟りって閉鎖的なとこが発信だよね。都会とかにもあるのかな?

    2023/08/05/00:18
  • 久しぶりの実話で😱と思いました。

    2023/08/05/00:35
  • 地域固有の怪異は確実にあるでしょうね。
    都会、閉鎖的な田舎、関係なく。

    2023/08/05/01:46
  • これは確実に後世に残る怪異になるだろう

    2023/08/05/18:08
  • 文でみるのもいいけどアニメでも見てみたい笑

    2023/08/08/16:48
  • 霊を馬鹿にしてはいけない

    2023/09/13/13:53
  • ぜひ芥見先生に執筆して頂きたい

    2024/10/20/23:58

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