夜、私は深い霧の山道を走っていた。
『100メートル先、左カーブです』
カーナビの声が、ラジオの合間に響く。
半ばぼんやりしていた意識を引き締め、ハンドルを切る。
『150メートル直進です』
視界の悪さの中、カーナビは有り難いが、鵜呑みにするつもりはない。
徐行しながら進んでいく。
そもそもこの道は、事故が多発している。
「向こう側に呼ばれる」
という噂も多い。
カーナビが存在しない道を進めと言ったとか、居ないはずの乗員を見たという話もある。
下らない事だ。
噂を頭に入れてしまうと、先入観から実在しないものが見えてしまう事があるのだ。
慎重に、安全に運転をする。
そのうちにようやく、眼下に街灯りが見え始めた。
霧は薄くなり、ライトも遠くに届くようになっていた。
良かった。
無事にやり過ごせた。
行く先に、道路沿いの展望台が見えて来る。
疲労感を覚え、車を駐車場に停め、外に出た。
伸びを1つ。
それから車の前を通って展望台に――。
「!」
車の前面に、赤いものがべったりと付着していた。
まさか人間を轢いた?
集中していた筈だ。
絶対に脱輪しないように。
道だけに集中して……。
あれ。
歩行者を気にしただろうか。
見落としただろうか。
どこかで、ぶつかった衝撃がなかったか。
今ならまだ、間に合うんじゃないか。
不安は膨らんでいく。
やっぱり無視出来ない。
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