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心霊

件の首さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

雨と幽霊
長編 2022/10/22 21:59 4,657view
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 翌日の水曜日。
 今日も私は深夜の仕事をしていました。2時頃に搬入されたお弁当類の品出しが終わりで一区切りついた頃合い。
「ごめんください……」
 昨日の女性が現れた。
 彼女は、売り場から紙コップをレジに持って来ました。
「――お湯とお砂糖を下さい」
「あの、紙コップをお持ちじゃありませんか?」
「ああ、はい」
 彼女はポケットから潰れた紙コップを出しました。
「買って頂いたコップの数ぐらいはサービスしますよ」
「ご親切に、ありがとうございます」
 彼女は深々と頭を下げ、またガムシロップを溶かしたお湯を持って帰りました。
 後にはまた、柑橘系の香りが残っていました。

「そりゃあ、飴買い幽霊と一緒じゃないか」

 次の日、オーナーに彼女について報告をしたところ、そんな言葉が返って来ました。
「雨、幽霊……?」
「死んで埋葬された後に赤ん坊を産んだ母親の幽霊の話さ」
「こわ」
「一緒に埋められた六文銭を使って飴を買い、人に気付かれるまでの6日間、赤ん坊の命を繋いだって話さ」
「ろくもんせん?」
「三途の川の渡し賃として棺桶に入れるんだよ。今でも燃える素材で入れたりするよ」
「へえ」
 彼女が同じようなものだとして……と、考えたところでふと気付きました。
「ちょっと待って下さい。今の時代、死んだら火葬されるじゃないですか。子供なんていつ生まれるんですか!」
「ははは、まあ、今だとそうだな。少なくとも同じ事があったら、死亡診断の時に気付いて赤ん坊は助け出されるだろうよ」
「確かに」
「結局、どっかの貧乏人にロックオンされたんだろ。紙コップを使い切ったら、今度はコーヒーを買って貰えよ。クセになるからな」
「分かりました」

 オーナーの指示は冷たいようですが、紙コップ7つまで分はタダで砂糖とお湯をあげても良い、という意味でもありました。
 オーナーなりの貧乏な相手への優しさでしょう。
 ですが私は、彼女がただ貧乏で砂糖とお湯だけ貰いに来ているとは、どうしても思えませんでした。
 木曜日は私のシフトではありませんでしたが、バイト仲間に断りを入れて、バックヤードで彼女の来店を待ちました。
 もし来ないならミルクの事は解決したのだろう、来たなら――。
 彼女は……来てしまいました。
「いらっしゃいませ」
 バイト仲間が挨拶します。
「あ……」
 店員が私ではなかったためか、彼女はやや躊躇いの表情を浮かべました。
「えっと、砂糖とお湯ですか?」
 店番のバイト仲間が、打ち合わせ通り先に声をかけます。
「はい……よろしいでしょうか」
「ええ、コップを使い切るまでは、そのまま利用して構いませんよ。その後はコーヒーかなんか買って下さいね!」
 彼女が砂糖湯を持って外に出たタイミングを見計らって、私は店を出ました。

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コメント(3)
  • 切なく哀しいお話でした。私が初めて聞いた怪談が、この「飴を買いに来る幽霊」でした。
    いつの時代も母親の我が子への思いは、変わりませんね。

    2022/10/24/04:48
  • 切ない話でしたが、人と話すのが苦手と言ってた貴方は人として素晴らしい対応でサービス業のお手本ですよ。

    2022/10/24/14:21
  • すばらしいコンビニです。毎日通いたい。

    2022/10/31/12:29

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