古戦場の怨念
投稿者:くま (10)
わたしは暢気なもので、先輩方のしていることを見て、入社した当時は「馬鹿なことをしているなあ」と思ったものです。
しかし、実際にこの場所で働き、夜勤に入るようになって、色々と奇妙な経験をするにつれ、彼等の気持ちが分かるようになりました。
変な気配や足音、声などは、決して気持ちの良い物ではありませんでした。
夜更けに徘徊をする利用者のほうが、どれほど良いか分かりません。暗い通路の向こうから、ひたひたと足音が近づき、黒い人影が見えてきて、ぎくりとしたことが何度もありました。しかし、それが徘徊する利用者であることが分かった瞬間、どれほどほっとしたことでしょう。
「なあんだ、××さんですか。お散歩疲れたでしょう、お茶でも飲んで休みませんか」
と、こちらも笑いながらお話し、利用者さんと暗いホールで座って過ごしたりしました。のどかな思い出です。
霊感の強い人たちが遭遇する幽霊たちは、次第におどろおどろしさを増していったように思います。時には何か話しかけられた人もいたようです。
「絶対に返事しちゃだめ。つれていかれるから」
と、その、幽霊に話しかけられた霊感の強い先輩は言っていました。
(つれていかれるって、どこにだろう)
一方、わたしのほうが、さも恐ろしい事であるかのように語る先輩方を、心のどこかで面白がっていたのでした。
そう。
わたしは、古戦場の幽霊など恐ろしくはない、大昔にあったことの名残ではないか、と、たかをくくっていました。
古い怨念が未だ漂っているにしろ、今を生きる我々に影響を及ぼすことなどありえない。むしろ、山奥から彷徨い出てくるクマの被害の方が怖いと思っていました。
しかし、古い怨念の残留思念がいかに恐ろしいものなのか、やがて知ることになりました。
それはごく最近のことです。
この施設から最も近い場所にある商店に、強盗が入りました。幸い、けが人などは出ませんでしたし、強盗はすぐに捕まりました。
わたしも利用する店なので、こんなことがあるのかと驚いたものです。
しかし、古くから施設にいる職員はこんなことを言いました。
「あ、またか。やっぱりなあ」
どうやら、その商店は、数年おきに火災を出したり、車が突っ込んできたりなど、思いがけない災難に遭っているようです。
その職員は二十年近く施設で働いている古顔ですが、在籍している間、そのお店で変事があったのは、一度や二度ではないとのことでした。
「あそこなあ、戦国時代では刑場だったらしいから」
その職員は言いました。
施設がある辺りに城があり、少し坂を下った場所にある、その商店のあるあたりが刑場だったらしいです。
大昔、お店の敷地のあたりでは、捉えた敵たちをハリツケにしたり、斬首したり、その他、言葉にするのも怖いような処分をしていたといいます。
そんな殺され方をした人々の怨念が未だにそこに残り、事故や犯罪など、悪いことを引き寄せているのでしょうか。
(うそだあ、またまたぁ)
わたしは話半分に聞いていましたが、どうやらそれは本当のことらしいです。
昔から町にいる人たちは口をそろえて「あそこは土地が悪い。あの店は何度も災難にあっている」と言っています。
これだけ古くからの怨念があるならお祓いや土地供養をかなり期間をかけないと駄目ですね。
まぁ特養だからね…訳アリの安い場所に建てがちだよね。