かくれんぼ
投稿者:二十左衛門 (3)
と、何故か客間の押し入れに僕が隠れる流れになり、各々が自由に散らばっていくのです。
僕自身、別にこの押し入れに隠れること自体は問題ないのですが、言い知れぬ不安がどうしても尾を引いて足を踏み止まらせ、襖を開ける気力を奪っていきます。
しかし、「もういいかーい」というD君の合図に急かされると、僕は半ば自棄になりながらとりあえずは隠れなければと思い、襖を空けて狭い隙間に体をねじ入れるのでした。
座布団やら敷布団やらの隙間に何とか全身を捻じ込む事に成功すると、僕は不格好ながら開けっ放しの襖を閉め、暗くカビ臭い空間へ身を潜めます。
押し入れの中は案外物静かというか、ぎゅうぎゅうに詰まっているせいか外界の物音がそこまで響いてこず、微かにD君が捜索している足音や、時間の経過と共に見つかった友達の悔しがる声が聞こえる程度で、殆どは僕自身の息遣いがこぼれているのをじっと聞いているだけでした。
すると、ツンと何かが肘に当たった気がしたので振り向こうとしたものの、やはり物で体が圧迫されているせいで体勢を変える事が叶わず、僕は腕だけを伸ばして手あたり次第にまさぐり何が当たっているのか確認しました。
ギュッ。
「ん?」
何かが僕の掌に触れたかと思えば、例えば誰かと握手した時のような包容力を掌全体に感じたので、つい声が漏れてしまいます。
モゾモゾ、モゾモゾ。
今度は確実に何かが蠢いている音と共に、背後を隔たる敷布団が鼓動を帯びたように動き始めたのです。
僕は冷や汗を浮かべながらも、すぐに押し入れから飛び出すべきか、それともこのままD君が見つけてくれるまで待つべきか悩みました。
と言うのも、縁側を伝ってD君の足音が近づいてくるのがわかっていたからです。
僕はモゾモゾと動く敷布団に軽く背中で体当たりをかますと、不思議と音や動きが止んだので、恐らく重ねた荷物が傾いてずり落ちるように荷崩れしていたのだと楽観的に解釈し、引き続きかくれんぼの鬼が見つけてくれるまで息を潜めることに専念しました。
……ヒソヒソ。
すると今度は誰かの囁き声が聞こえてきました。
最初は、外でD君達が話しているのだと思いましたが、どうにも耳を傾ければ声の出所が後方から聞こえている事に気づき、僕は再び言い知れぬ恐怖に表情を歪めます。
やはりこの押し入れには何か潜んでいたのではと予想し、例えば家族に黙ってペットを飼ってるだとか、実はゴキブリとかねずみが巣くっているだとか、その程度の妄想を掻き立てながら僕は再び背中をぶつけてみました。
キュッ。
潰れそうになった小動物が漏らすような、そんなくぐもった鳴き声らしきものが聞こえたので、僕は思わず「やば、なんか潰したかも」と変な方向に捉えて青ざめます。
そんな折、突然襖が勢いよく開いたかと思うと、D君が精気を失ったような虚ろな目で見下ろしながら、
「……〇〇君、みーっけ」
と吐き捨てるのです。
一見して無表情にも見えるD君の視線を辿ると、D君は僕を通り越して、僕の背後を見つめている事に気づきました。
「あー、みつかっちゃったか」
僕はとりあえず悔しい素振りを見せながら身をよじって押し入れから抜け出そうとしたのですが、四つん這いになって全身の殆どを脱出させたところ、残った右足の足首を誰かにガッと掴まれたのです。
「うわあああッ」
突然足を掴まれた事と、思いの外握力が強かった事で、僕は大きく悲鳴を上げてしまいました。
僕の悲鳴を聞いて駆け付けたA君達が「どした!事件か!」と颯爽と視界に飛び込んできたのですが、足首を解放されて呆然自失と座り込んだ僕と、僕を見下ろすように佇んでるD君を見て、ただ鬼に見つかっただけだと解釈したのか「驚きすぎ」と笑いこけるのです。
当の僕はと言えば、確かに誰かに足首を掴まれたと感じたので押し入れを見やるも、どう見ても人が入れるスペースが無い事から思わずD君へ視線を流してしまい、視線を向けられたD君は何故か無言のまま襖を閉めました。
結局なんだったんだ…不気味だ
顔が思い出せないなんて・・・・
ためはち