かくれんぼ
投稿者:二十左衛門 (3)
キッチンを抜けて居間へ向かうと、ずっしりとした長テーブルが置かれた広々とした空間に立ち入るなり、僕はさっそく客間と似たような模様が描かれた襖に目を向けました。
かくれんぼで隠れられそうな場所はそもそも押し入れしかないのです。
案の定、押し入れを空けるとA君が直立不動でこっちを向いて立っており、僕と同じ目線にA君の顔が現れたので思わず「ひえっ」と声が漏れてしまい、A君に笑われてしまいました。
しかし、すぐに見つかった悔しさと、解放されて外気の涼しさを浴びた事で、ぐだぐだと何か喚きながらA君は玄関へ向かったのです。
残りはC君とD君の二名。
僕は何となく客間を通過して縁側に出ると、他に隠れられそうな場所が無いか見渡してみます。
カーテンの裏側、物陰の裏、まさかの雨戸にへばり付いているとか?と思いながら覗き込むも、何れの場所にも二人いません。
少し考えた後、僕はそういえばトイレはまだ見ていないと思い至り、トイレまで駆け寄るなり間髪入れずにドアを引きます。
「うわああっ」
叫んだのは中に入っていたC君で、しかも小便小僧の体勢で用を足しているところでした。
何でも待っている間に尿意を催してしまい、鬼が中々見つけてくれないから済ませたとのこと。
予想外の光景を目にして盛大に笑ってやると、C君は「早くしめろよ」と焦りを見せ、僕は「C君トイレでみっけ」ととりあえず発見報告をしてドアを閉めました。
残るはD君ただ一人。
さすが家主という事もあり、僕達がまだ見つけていない隠れ場所に潜んでいるのだと直感しました。
とは言え、間取りは玄関の踊り場、台所、居間、客間、縁側にトイレ、とあるだけで、全て捜索したはずだと深く考えていると、そういえば客間の押し入れはまだ見てなかったなと思いつきます。
D君に見せてもらった時はかなり過密していた事を思い起こしながら、頑張れば入り込めるだろうと考え、一応確認する為に客間にやってくると、やはり最初に感じた視線を感じて思わず肩が委縮してしまったのです。
しかし、開けてみない事にはD君が隠れているか分からないので、僕は勇気を振り絞って襖の前へ歩み寄ります。
強烈な視線、存在感とも言うのでしょうが、そういった威圧が襖の奥から僕へ向けられているように思いました。
そして、僕が手を伸ばした時、縁側からゾロゾロと足音が聞こえてきて、
「時間切れーっ!鬼の負けだな!」
「俺らの勝ちだぜ」
と、A君達が客間にやってきたのです。
僕はA君達の後ろにいたD君を見て思わず「え、D君どこにいたの?」と訊ねました。
するとD君は、「階段したの収納」とドヤ顔を見せるのですが、僕は今まさに開けようとしていた襖から向き直り、「そ、そんなトコがあったんだ」と苦笑しました。
「じゃあ、次二回戦な」
再びA君が仕切り直すとじゃんけんで鬼を決める事になり、今度はD君が鬼になりました。
D君が玄関へ駆けていく最中、A君達は「次はどこ隠れようかな」などとはしゃいでいましたが、僕はやはり襖が気になって視線を外せません。
そんな僕を見たA君達が、
「お前ここ隠れんの?」
「じゃあ、俺違うところ探すかな」
「今度こそ隠れ切ろうぜ」
結局なんだったんだ…不気味だ
顔が思い出せないなんて・・・・
ためはち