一人暮らしの代償
投稿者:N (13)
警官の一人が包丁を足で払い、もう一人が俺に近づき話しかける。
「通報を受けて来たんですが、もしかして自殺をしようとしていたんですか?」
怪訝な面持ちで俺を見やる警官は、俺の体に付着した血痕を目で追う。
今となって痛みが生じたきたものの、まだ寝惚けているのか、俺は状況を飲み込めていなかった。
すると、スマホから着信音が鳴り、俺も警官達も部屋の奥へ視線を向ける。
とりあえず電話に出ていいか訊ねると、普通に頷かれた。
電話の相手は友達だった。
なんでも、俺がビデオ通話越しに体を傷つけ始めたもんで、自殺でもするのかと思い通報したそうだ。
たまに遊びに来るし、前に一度、友達が帰省した際のお土産として実家で採れたという蜜柑を郵送されたことがあり、その時に住所は控えていたという。
友達に警官と代わってほしい言われ、俺は素直に応じ、警官も流されるように俺のスマホを受け取り会話を始めた。
一頻り話し終えた警官は電話を切り俺に返すと、もう一人の警官に耳打ちしたと思えば、その警官は無線に向かい「自殺未遂、心配なし」と短い報告をする。
「あ、あの、俺べつに自殺してないですけど……」
「その傷見せられちゃ説得力ないよ」
警官が持っていたライトで俺を照らすと、衣服の上からでも一目で分かる赤黒に染まる体。
今更ながら口回りにも痛みがあり、警官の指摘で頬にも切り傷があることを知った。
「とりあえず病院いこっか」
警官に言われ俺はパトカーに乗せられた。
パトカーの中で警官が通報を受け駆け付けるまでの経緯を語り、気まずい車内で俺はそれを聞き続けるしかできなかった。
先程の電話で警官は俺の友達から不眠症の事も聞き、学業とバイトの両立で疲労困憊であることも知ったらしく、精神的にまいっていたことからの衝動的な自殺と判断したそうだ。
その事もあり一度病院で診断を受けた方がよいと思ったのか、自傷の治療を理由に病院へ連れていくのが目的だったと、後から聞いた。
病院で傷の治療を終えたついでに精神科医の紹介などを受け、数時間後には解散となり、お世話になった警官に頭を下げて謝罪と感謝を述べる。
家に帰り、友達に迷惑をかけたことへの謝罪文をラインで送り、その日は昼前まで眠ることにし、大学を休み、受診の予約をしてた。
精神科で診断を受けたことで、もしかしたら誰かにこれまでの頑張りを話したことで精神的に安堵したのかもしれないが、随分と頭の中がスッキリした感覚になった。
と言っても医者から出されたのは不眠症に効く薬だけだが。
数日後、大学で友達と会うと、随分久しぶりに思え自然と笑顔になる。
友達も笑顔で挨拶をし、俺の隣に座り世間話をする。
「だいぶ顔色よくなったな。あの時はマジびびったわ。お前、よく覚えてないとか言うし」
「すまん、あの時はホント助かった……?と思う。シフトも減らしたし、前より負担なくなったから不眠症も解消したよ」
「マジつかれてんじゃねえかなとは思ったけど、大丈夫そうだな」
それから二人で被った講義に出て、その日は帰りにカラオケに行って遊んだりした。
面白かったけどなんだか不安になる話