見ててね

大学生の頃、とある心霊スポットに肝試しにいったんだが、その時に幽霊に憑かれた。

廃校になった小学校だったんだけど、友達三人と校内を散策してるとスーッと廊下を横切る人影みたいなのが見えたのね。
最初はビビりながらも普通に生きてる人間がいると思って友達に「やべ、今誰か走ってったｗｗ」て強がりながら話してた。
でも、人影を追いかけていったら、廊下の突き当りに出くわしてリアルに「あれ？」って唖然とした。

「おまえ、ビビらせんなよｗ」

友達二人は軽く肩を叩いて踵を返してたけど、俺は突き当りの壁面を見つめて暫く固まってた。
壁と天井の境目あたりに青白い子供の顔が生えてんの。
懐中電灯で前面を照らしてるせいかのかもしれんけど、呪怨の子供みたいに真っ白い顔だった。
目元だけは空洞なのか知らんけど、何か真っ暗に見えたが、唖然と口を開けたままの俺をじっと見てた。

我に返ってすぐそこから離れて友達と合流した俺は、内心「やべえやっべえ」って焦ってたんだけど、友達に話したら話したで信じてもらえないだろうし、話したらあの子供が何かしてきそうだと直感的に思った。

だから慌てず騒がず自然な流れで友達と合流して、肝試しを再開した。

そんな俺の繊細な気遣いを子供の幽霊は無下にする。
何か、校内を散策している最中、先々に現れては驚かせてくるんだ。
例えば、教室のロッカーを開けたら中で棒立ちしてるし、教壇の机の下を覗けばそこにしゃがみ込んで見上げてくる。
トイレに入れば天井のあたりから顔だけ出して覗き込んでたし。
それでも、何故か友達二人は何も驚きもせずに「何もいねえな」とつまらなそうにボヤいてたから、この段階で「ああ、俺にしか見えてないのか」と背筋が凍った。

幽霊に会いたい一心で散策する友達。
普通に目の前に姿を現してる幽霊。
幽霊に会いたくないのに見えてる俺。
そんな光景がしばらく続いてたんだけど、不意に子供の幽霊がトコトコと廊下を歩く俺達の横を追い越すと、教室のドアの窓ガラス？の部分に手を当てて『見てて』と口許を歪めた。

いや、お前喋るんかい。とは思ったが、次の瞬間、ドアのガラスに『ピシシッ』と音を立てて亀裂が入る。
結構はっきり聞こえたから、友達も「うおおっ？」って音に反応した。
「こっから音したよな？窓割れてた？これ？」と明かりを照らす。
俺はというと、その場から離れていく幽霊を目で追ってたけど、幽霊はスーッと壁面に溶け込んでいた。

その時の肝試しはそれ以上何も起きなくて数十分後には解散になったんだけど、困った事にその子供の幽霊が俺に憑いてきたっぽい。

最初に気付いたのは、大学のトイレだった。
構内のあまり人が来ないトイレに駆け込んだ俺は、用を済ませた後に手洗い場に立ったんだけど、正面の鏡を見れば半開きの個室の影からあの時の幽霊が半身になってじっとこっちを見てた。
その時はビビってトイレから飛び出したんだけど、ちょっと時間が経った後、次の講義がある教室に移動していると突然耳元に『見てて』と囁かれた。
ゾクッとして振り返ったんだけど、横には誰もいなくて、もう一度前に向き直ると、正面の階段から降りてくる学生の隣に例の幽霊がいた。
何をする気なのか分からなくて黙って見ていたら、幽霊はその学生を両手で突き飛ばした。
当然、急に後ろから押されたものだからその学生はバランスを崩して階段から転げ落ちる。
幸い残り数段だったから「うわっ」とか「いって」って感じで、擦り傷とか軽い打撲で済んでたけど、俺は幽霊がほくそ笑んだ表情に寒気を覚えた。