一人暮らしの代償
投稿者:N (13)
駅で別れ、友達と反対の電車を待つ俺は、ホームに待つ長蛇の列へ視線を向ける。
スーツ姿のサラリーマンがふらふらと白線近くを歩いていると思えば、やはり足を滑らせて線路へ落下した。
そこへ各駅停車の車両が警笛を鳴らし、ホームへアナウンスが流れ、乗客は今か今かと電車の頭を見やる。
やがて、サラリーマンと電車は接触し、停車とともに扉が開き、大勢の乗客の乗り降りが始まり、俺は電車に乗り込む前に一度だけ車両の隙間から線路を見下ろす。
まるで側溝から見上げるようにサラリーマンの顔が覗いている。
俺は何もするわけでもなく、空いていた席に座り、自宅のある駅まで眠って過ごすのだ。
この時、俺は医者から言われた事を思い出していた。
結局は疲労や不眠症による幻覚と一時的な鬱だと言われたが、それについて正直ピンと来ないところがある。
では、自宅で見たあの女は幻覚なのか?
駅で見た自殺しようとした男は?
幻覚とはあんなにハッキリ見えるものなのか?
確かに疲労と不眠症で精神的に病んでいたかもしれないが、それだけであんな恐ろしいものが見えてなるものか。
俺の見解としては、あれは本物の幽霊ではないかと疑っている。
だが、その浅慮な見解もほどなくしてひっくり返される。
ある日、友達と宅飲みしていた時、上機嫌だった友達が言った言葉。
「しかし、お前が図書室の棚に隠れてじっと立ってた時とか、ほんと怖かったわ。テレビ通話で自分を刺し始めた時は終わったと思った」
俺は飲みが終わり自宅に帰る途中、電車の中で考え込んだ。
いや、これまで朧気だった記憶が明確に蘇っていったことに戸惑った。
最初の窓ガラスに映った人影。
俺は俺が窓辺に佇んでガラスを爪でカリカリ引っ掻いていた。
駅のホームで電車に飛び込んだスーツの男。
あれは俺が一人でに走り出して他人に助けられた。
図書室の人影もそうだ。
友達が言う通り、俺が棚から半身はみ出すように佇んでいただけだ。
夜中に友達にビデオ通話を繋げて自傷したのも俺自身の行為だ。
そう、これまでの奇妙な出来事は全部俺が一人で行為に及んでいたことだ。
そんな記憶が流れ込んでくることに激しく動揺した。
俺はアパートに戻るなり整頓された室内に鞄を置く。
ベランダに目をやると人影が佇んでいる。
それは果たして、俺の精神疾患による幻覚なのか、本物の泥棒なのか。
それとも幽霊なのか。
俺は俺自身の頭を信頼できなくなり、やがて考えるのをやめ就寝についた。
面白かったけどなんだか不安になる話