躾のなってない子供
投稿者:N (13)
ある日、授業が午前中で終わったから暇を持て余していて、いつもの友達と学校帰りに馴染みのカラオケのチェーン店に入っていった。
男三人だったがちょうど時間帯的に大部屋がガラガラだったらしく、店員に「良かったらどうぞ」と言われたので遠慮くなく入室したが、流石に大部屋だけあって十人以上はどんちゃん騒ぎ出来そうな空間に少し圧倒された。
まあ善意で勧めてくれたのでラッキーと思い利用させてもらったが。
俺達は学生らしく適度に歌って騒いで、店員への恩返しという訳でもないけど、から揚げとか頼んで売上にも貢献した。
一時間ほど経過した頃だろうか、俺は妙な気配を感じて廊下を見やる。
廊下側の壁面は上半分がガラス張りになっている事が多いと思うが、この店も例外なく廊下側の上半分がガラス張りとなっていて、視線避けに幾何学的な模様が描かれていたり、中の様子があまりはっきりと見えない様にスモークガラスとまではいかないが暗い色合いになっている。
それでも中からは廊下をはっきりと確認できるので、俺は廊下を見たわけだが、ガラスの下辺りから子供の顔らしきものがひょっこりと飛び出してこっちを覗き込んでいた。
(なんだ?どこのガキだよ、躾がなってねえな)
見られている事に不快感を示し眉根が下がってしまったが、俺も負けじとその子供を睨みつけてやった。
子供の顔がちょうど目の辺りから生えている事から小学生低学年くらいの身長だという事が分かる。
それなら家族連れだろうから何処かに親が居るはずだが、親は何をしているんだと問い質したい気持ちでいっぱいだった。
俺がずっと廊下の方を見ている事に気付いたのか、選曲を歌い終えた友達のAが「なんだ?お前の知り合いか?」と子供を一瞥しながら聞いてきたので「知らん奴」と答えた。
もう一人の友達Bは呑気にデンモクをいじって曲を探していたが、俺とAは目の前の子供について話していた。
「さっきからずっと見よるわ」
「ガキに舐められてんのかお前」
俺がずっと子供と睨み合いを続けていた事をおかしく思ったのか、Aはドリンクを飲もうとしていた手前吹き出して笑う。
しかし、Aは喉を潤わせた後、乱暴にグラスを置いて立ち上がると、
「ちょっとおどかしてやるか」
と悪代官の様に悪い顔を浮かべてガラスに近づいていく。
流石に子供相手に悪戯して泣かせたらこっちの外聞の方が悪くなると思ったが、まあ人様のプライベートを勝手に覗いていた向こうも悪い。
そう思い、俺はAの行動を諫める事もせずに黙って成り行きを見守る事にした。
Aはある程度ガラスに近づくと、一気に詰め寄り「わっ!」と音を立ててガラスに両手を当てて驚かす。
古典的な驚かし方に逆に俺が笑わせられそうになるが、どうにも何かがおかしい事に気付いて素直には笑えなかった。
と言うのも、何故かAはガラスにへばり付いたまま硬直しているし、A越しに見える子供の顔の輪郭も微動だにしていない事から別段向こうも驚いて固まっているわけでもないだろう。
何より子供が驚いたら悲鳴を上げて一目散に逃げるだろうし、俺も驚かされたら肩を跳ねる自信はある。
時間にして10秒くらいだろうか、漸くAがガラスから身を引いて徐に後退りし始めたかと思えば、そのまま踵がソファに引っ掛かりすっぽりと腰掛ける様にして座り込んだ。
ただ、Aの表情が芳しくなく、放心状態と言うよりかは青ざめて見える。
まあ、カラオケルームの仄暗い空間とカラフルな電灯によって本来の顔色もよく分からないが、それでも信じられないものを見たかの様に怯えているように見えた。
「どした?A」
俺はそう問いかけながら返ってこない答えを待つ事もせず、顔をガラスの方に向ける。
カラオケボックスって幽霊でるところ多くない…?
いや、それな?怖すぎて一回しか行ったことないんだよね( ;∀;)
心霊体験はしなかったけど、カラオケボックスは賑やかで楽しそうにしているから霊たちが
寄ってくるんだと思う。あくまでも私の予想だから。