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心霊

yukiさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

あの夏の日の勇気を私は今でも忘れない
長編 2025/09/27 18:54 3,932view

恨めしいほどに照りつける太陽。

憎らしほどに真っ青に輝く海。

潮の満ち引きが、裸足の素足に絡みつく。

私は、波の飛沫が混じる透明な海の中に浸かった色白な足を見下ろす。

あと一歩。

あと一歩、前に踏み出す勇気が欲しい。

それがあの日、私を助けてくれた『彼』の…、名も顔も覚えていない『彼』の勇気に報える、最良の方法だと思う。

私は、海が苦手だ。

水の中に入る事すら嫌いだ。

小学生の頃。

海水浴に行った私は、海で溺れかけた。

泳ぎは得意なはずだった。

見渡す限りの水平線は穏やかであり、高波も見えなかった。

それでもなぜ溺れたのか、今もわからない。

私の身体は、海に飲まれたまま波に攫われ、沖まで流された。

もうだめだ。そう思った時。

力強い腕が私の身体を掴んだ。

溺れた私を助けたのは、一人の男性だった。

その男性は、海の中で意識を失いかけていた私を抱え、沿岸まで運んでくれた。

男性は、波を掻き分けて駆けつける両親に私の身体を預ける。

その後、両親の介抱のおかげで、私は一命を取り留めた。

安堵した両親は、私を助けた男性を礼を言おうと浜辺を探した。

しかし、結局その男性の姿は見つからなかった。

慌てる両親の傍で、その男性はいつのまにか姿を消したらしい。

私もその男性の顔は覚えていない。

唯一記憶にあるのは、幼い私の身体を抱き締める、その『彼』の力強い腕だけだ。

『彼』がいなければ、私は確実に死んでいた。

私が助かったのは、名も顔も知らない『彼』のおかげであり、運が良かっただけなのだ。

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