恨めしいほどに照りつける太陽。
憎らしほどに真っ青に輝く海。
潮の満ち引きが、裸足の素足に絡みつく。
私は、波の飛沫が混じる透明な海の中に浸かった色白な足を見下ろす。
あと一歩。
あと一歩、前に踏み出す勇気が欲しい。
それがあの日、私を助けてくれた『彼』の…、名も顔も覚えていない『彼』の勇気に報える、最良の方法だと思う。
…
…
私は、海が苦手だ。
水の中に入る事すら嫌いだ。
小学生の頃。
海水浴に行った私は、海で溺れかけた。
泳ぎは得意なはずだった。
見渡す限りの水平線は穏やかであり、高波も見えなかった。
それでもなぜ溺れたのか、今もわからない。
私の身体は、海に飲まれたまま波に攫われ、沖まで流された。
もうだめだ。そう思った時。
力強い腕が私の身体を掴んだ。
溺れた私を助けたのは、一人の男性だった。
その男性は、海の中で意識を失いかけていた私を抱え、沿岸まで運んでくれた。
男性は、波を掻き分けて駆けつける両親に私の身体を預ける。
その後、両親の介抱のおかげで、私は一命を取り留めた。
安堵した両親は、私を助けた男性を礼を言おうと浜辺を探した。
しかし、結局その男性の姿は見つからなかった。
慌てる両親の傍で、その男性はいつのまにか姿を消したらしい。
私もその男性の顔は覚えていない。
唯一記憶にあるのは、幼い私の身体を抱き締める、その『彼』の力強い腕だけだ。
『彼』がいなければ、私は確実に死んでいた。
私が助かったのは、名も顔も知らない『彼』のおかげであり、運が良かっただけなのだ。





















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