…
その出来事があってから、私は海に近付かない。
泳ぐ事も、水着を着る事もなかった。
怖かったのだ。
あの時、私が溺れた理由は、今でもわからない。
けれど、一つだけ気付いた事がある。
海から引き上げられた私の足首に、痣ができていた。
その痣の形はまるで、私の足首をがっちりと掴んでいるような、人の手の形をしているように見えた。
この痣と、私が溺れた事は、
きっと、
たぶん、
おそらく、
関係ないと思う。
…
…
夢を見た。
ゆっくりと海を泳ぐ、幼い私。
砂浜では家族が手を振っている。
立ち泳ぎながら私も手を振り返す。
塩辛い海水が私の口元を舐めた。
澄み渡る空。水面の遙か先の水平線。
近所の市民プールとは違う、自然がつくる圧倒的開放感。
海に来て、良かった。
だがその時、
私は突然、海の中に引き摺り込まれた。
唐突に浮力を失い、頭まで海中に浸かる。
顔面を覆う海水が呼吸を遮断する。
私は両手両足を必死に動かして海中から脱出しようとがむしゃらにもがく。
だが片足だけが私の意思を無視して動かない。
いや、動かないのではない。
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