私は父の仕事を知らない。
父に聞いても答えてくれる事はなく、15歳になった今でも知らないままだ。
父と不仲というわけではない。普通に話もする。
父は、よく私に「立派な大人になるんだぞ」と口にする。それが私は嫌ではない。
母もそうだ。今日も遅くなる父の帰宅を待ちながら、甲斐甲斐しく食事の支度をしている。家族想いの良い母だと思う。
◆
ある日、母に父の仕事について尋ねたことがある。
私のその疑問に母は、「とっても素敵な仕事よ。あなたもいつかお父さんみたいな立派な大人になってね」と笑顔で曖昧にそう口にするだけだった。
◆
私は父の仕事を知らない。
しかし、父の趣味は知っている。
父の趣味は音楽鑑賞だ。
帰宅後の父は自室に籠り、ヘッドホンを耳に当てて音楽を聴く。
その時の父は、身体を安楽椅子に預けて瞑目し、ある種の恍惚とした表情を浮かべていた。
きっと、父はとても重要な仕事を任されていて、音楽に耳を傾けるこの瞬間だけが安息の時なのだろう。
そう理解した私は、立派な父を誇りに感じ、両親の期待に応えたいと思っていた。
…ある日までは。
◆
ある日、父の不在時に、私はこっそりと父が愛聴している音楽を聴いてみた。
「?」
しかしヘッドホンから再生されたのは音楽ではなく——
誰かが父に向かって必死に命乞いをするだけの音声が延々と流れ続けているだけだった。
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