オヤゴコロ
投稿者:Mine (24)
現在、夫と娘の3人で慎ましく暮らしている高橋さんが高校生の頃に体験した恋にまつわるほろ苦い思い出話を聞かせてくれた。
16歳の高橋さんは当時バレー部の一つ上の先輩に片想いをしていた。
きっかけは球技大会の時。
貧血で倒れた高橋さんを医務室まで連れて行き甲斐甲斐しく付き添ってくれたのがその先輩で、それ以来常に先輩が頭の片隅を占めるようになったという中々ベタなものだ。
そんな想いが募ってある日の放課後、ありったけの勇気を振り絞り先輩を呼び出し、ついに胸中を打ち明けた。
しかし、「今付き合っている人がいるから想いに応える事はできない」とあっけなく高橋さんはフラれてしまう。
今彼女がいるなら仕方ないか、と悲しみに沈む自分に何度も言い聞かせて失恋のショックから立ち直りかけていたある日のこと。
「お兄ちゃんには彼女はいない」と隣のクラスにいたその先輩の妹が話していたのを高橋さんは偶然耳にしてしまった。
その時、頭の中で何か糸のような物が切れる感覚がしたという。
あーあ。やっぱり、ほら。
やっぱりフラれたのは私がブスだから。
ストパーしても慣れないメイクを頑張ってもぜーんぶ無意味だった。
そりゃそうだよね。
そういえば可愛いとか美人とか、そんなこと今まで誰にも言われた事なかったな。
私がもっと可愛ければ先輩と付き合えたのに。
お父さん、お母さん。
何で私をこんな顔に生んだの?
この顔のせいで。
この顔が。 顔が! 顔が!
顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔!!!!
家に帰った高橋さんは家族写真や卒業写真、とにかく自分が写っている写真を部屋中から掻き集めると全てカッターでズタズタに切り刻んだ。
コスメ用品も全部ゴミ箱へ捨てた。
それから自分に恋愛はムリだと悟り、勉強に打ち込んだ高橋さんは名の知れた大学へ進みそこでも一度も彼氏を作る事もなく卒業、第一志望の企業へと就職した。
人生の転機は30目前の時だ。
一生独身を覚悟していたが親からお見合い話を持ちかけられ、そこで出会った年上で冴えない見た目の公務員の男性と交際を初めた。
気付けば結婚し娘も生まれ、高橋さんは今では専業主婦でそれなりに幸せに暮らしているという。
「みてみて、これ娘が3才の時。可愛いでしょ。」
高橋さんがカバンから取り出した写真にはミッキーの耳を頭に付けてあどけない笑顔を見せている幼児が写っていた。
「ほんと月日が流れるのは早いよねぇ。入学式をしたと思ったらあっという間に娘はもう11才になるの。ほら、見る?」
高橋さんは俺にスマホの画面を向けてきた。
そこまでしなくても。親心?
怖い!Σ(((((゜゜;)
うん、怖い…